第35話 スクライング
周囲を断崖絶壁に囲まれた絶海の孤島、惚気島⋯⋯
プリンス・レオポルド島のように真っ平な地形をしており、植生は豊かでなく、荒涼とした島だった。
農耕に適した土地はなく、資源もない無価値な島に思われていたが⋯⋯
しかし、赤道直下で周囲に人の住む陸地がなかった点、海嶺や海底活断層からも外れており、強固な岩盤からなる島であったため、宇宙軌道エレベーターを建設するには最適な島だった。
このため、C子の言う「こっちの世界」では、惚気島の領有権を巡り、多くの国同士で熾烈な獲得競争が繰り広げられた。
とりあえず、地獄が直接管理することで話が丸く収まっていたのだが、それは閻魔大王の本意でなく嫌々ながらのものであった。
もう、いい加減、自分とは無関係な領土問題を処理、確定すべく⋯⋯
厄介払いついでにと、ある交換条件を前提に⋯⋯
地獄と一番仲が良かったC子の国へ⋯⋯死神の長を通じて、極秘裏にそのまたある提案がされて来た次第である。
:
惚気島の岬で⋯⋯
一人の中年男性が、岩場の陰に怯えるよう隠れていた、一匹の子ウサギを見つけ対話していた。
ジェーン・パックマンはしゃがみ込むのような姿勢で、小さな丸い手鏡を見せながら、やさしく話かけていた。
「これが君のご主人(マスター)の夕菜ちゃんだよ」
「ゆ、ゆ、ゆ⋯⋯ゆうなちゃん!」
鏡の中には、学校の階段の踊り場にいる夕菜の姿が映し出されていた。
「もうすぐ、この島は危なくなる。こっちへいらっしゃい!」
パックマンは怯える小ウサギを両手で抱きかかえると、再びその場から姿を消した。それにしても「こっちの世界」とは⋯⋯
一体、なんなのか?
追々、詳しく説明して行く予定である。
:
その一方、C子らの乗った潜水艦は、潜望鏡深度を維持しながら、惚気島の沖合で待機状態に入っていた。
「艦長、ソナーにスクリュー音⋯⋯水上艦艇、二隻。こちらに接近」
「ランカ、潜望鏡を上げて確認しろ」
「うぃっす!」
乗員の大多数は獣人達であったが⋯⋯
C子と航海長のおっさん、そして、この新人乗組員であるランカ・リー(19歳、なんか美少女)の三人だけが、人間であった。