タルパ戦争 File48 愛をとりもどせ
京都のとある山中⋯⋯
シーア・ケイト・イゾベル・ファーラーによく似た髪型をした若者が、忍者のように竹林の中を疾走する。
若者の名は、鏡月ざざらめ⋯⋯
京都市内にある芸術大学に通う学生だ。新進気鋭の若手画家としても注目を集め、彼の才覚は留まることを知らなかった。そして、それはチベット密教の秘奥義として知られるタルパにも及んでいた。
「木口⋯⋯待っておれ!今週末にも助けに行くぞ!」
ざざらめは勢いよく飛び上がると、一本の竹へ両足で突いた。
竹の弾力を利用してさらに中空へ飛翔⋯⋯そうして何本かの竹で同じことを繰り返し、徐々に高さと速度を増して行った。
そして、大きな岩石のある地面に向かって突進⋯⋯
「ふわちゃあああああああああ!!」
岩石に正拳突きをして真っ二つに割り、一回宙返りした後、地面へ三点着地した。
「ふ~う、今のは⋯ちょっと、痛かったな」
ざざらめは懐からスマホを取り出すと、タルパ界隈の様子を伺う⋯⋯目を細め、木口のタルパ暴走の件でざわついている様子を達観した。
「さて、今晩はレゴのところへ行って見るか⋯⋯」
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同じ頃、これまた京都の別の山中で一人の男が修練のようなことをしていた。
レゴである。
デルタからの知らせを受け、居ても立っても居られない状況となっていた。巨木の前に立ち、精神統一を図る⋯⋯
その直後⋯⋯
「わたたあたたたたたたたたたたたたたたたた」
ケンシロウのような雄叫び声を上げ、杉の木を一瞬で粉々にした。
「浮島君⋯⋯そう言う訳だったのか⋯⋯俺も人肌脱ぐぜ!久々にタルパ界隈に目に物を言わせてやる!」
レゴはすべてを察していた。
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ざざらめは空を見上げる⋯⋯
「今、レゴの声が聞こえた気がする」
天高く舞い上がろうとする、鳶の鳴き声が鳴り響く⋯⋯
その時である⋯⋯
ナチスの制服を着用し、赤鬼の能面を付けた男が目の前に現れた。
「なんじゃ、お主?わしに何の用じゃ?」
「私の名は兜海老。この通り、不可視の存在たちを引き連れている」
「なっ!」
今までに見た事のないタルパに驚愕するざざらめ⋯⋯