第67話 信長の野望
死者の映画館⋯⋯
それは、この世とあの世の中間世界、デスタウンにある。
人は死ぬと、まず、この場所にやって来るとされている。そして、自身の生涯を映画として見させられるというものだった。
上映が終わると⋯⋯
いよいよ、地獄での裁きを受けることとなる。閻魔大王の前で見苦しい言い訳をする者は多い。死者の映画館は、いわば、自分自身の記憶と言う証拠を⋯⋯事前に提示される場所となる。
しかし、今回は特別な措置のようだ。
森蘭丸、たっての希望から、死神の頭目であるジェーン・パックマンによって導かれたようだ。
恐怖から泣き崩れる千夏⋯⋯
「おい!バカ女!目をそらさず最後まで見ろ!」
後方から、蘭丸の罵声が飛ぶ。
映像は⋯⋯
戊辰戦争から始まり、日清、日露戦争へ進み、太平洋戦争の映像へと変わって行った。そして、広島の原爆投下⋯⋯
その後、高度経済成長期の日本が映し出され、最後は渋谷のスクランブル交差点が映されて終わった。
再び、館内の照明が灯される。
蘭丸が座席通路を歩きながら叫ぶ⋯⋯
「なんだ!今の日本は!惚気切っておる!信長様の夢見た世界とは違う!」
千夏の横に立つと、蘭丸は無造作に千夏の髪の毛を掴み、顔を覗き込むようにつぶやいた。
「なぁ、お前もそう思うだろ?」
「わ、私は⋯⋯平和でいいと思う」
「はぁ?」
千夏は前の席の背もたれに前頭部をぶつけられる。
「もうその辺にしてあげなさい!」
蘭丸はパックマンの指示に素直に従う。
今度はパックマンが千夏のところへやって来る⋯⋯
「さぁ、帰りましょう」
「光秀よ!お主も変わったな」
「今の私はジェーン・パックマンですよ」
「本能寺で手違いさえなければ、今頃⋯⋯」
「あれは私が悪い訳じゃありませんからね」
パックマンは千夏を抱えながら、再び、駅の方へ向かうため、死者の映画館を出る⋯⋯背後から蘭丸の高笑いが鳴り響く。
「これじゃ実験が終わる前に⋯この娘の精神が壊れるな」
放心状態となる千夏⋯⋯
「もっと、メンタルの強いメンヘラを選ぶべきだったかな⋯⋯」
何か後悔じみた言葉を吐露するパックマン。