第35話 スクライング

投稿日 2024.01.11 更新日 2024.01.11

 周囲を断崖絶壁に囲まれた絶海の孤島、惚気島⋯⋯

 プリンス・レオポルド島のように真っ平な地形をしており、植生は豊かでなく、荒涼とした島だった。

 農耕に適した土地はなく、資源もない無価値な島に思われていたが⋯⋯

 しかし、赤道直下で周囲に人の住む陸地がなかった点、海嶺や海底活断層からも外れており、強固な岩盤からなる島であったため、宇宙軌道エレベーターを建設するには最適な島だった。

 このため、C子の言う「こっちの世界」では、惚気島の領有権を巡り、多くの国同士で熾烈な獲得競争が繰り広げられた。

 とりあえず、地獄が直接管理することで話が丸く収まっていたのだが、それは閻魔大王の本意でなく嫌々ながらのものであった。

 もう、いい加減、自分とは無関係な領土問題を処理、確定すべく⋯⋯

 厄介払いついでにと、ある交換条件を前提に⋯⋯

 地獄と一番仲が良かったC子の国へ⋯⋯死神の長を通じて、極秘裏にそのまたある提案がされて来た次第である。

   :

 惚気島の岬で⋯⋯

 一人の中年男性が、岩場の陰に怯えるよう隠れていた、一匹の子ウサギを見つけ対話していた。

 ジェーン・パックマンはしゃがみ込むのような姿勢で、小さな丸い手鏡を見せながら、やさしく話かけていた。

「これが君のご主人(マスター)の夕菜ちゃんだよ」

「ゆ、ゆ、ゆ⋯⋯ゆうなちゃん!」

 鏡の中には、学校の階段の踊り場にいる夕菜の姿が映し出されていた。

「もうすぐ、この島は危なくなる。こっちへいらっしゃい!」

 パックマンは怯える小ウサギを両手で抱きかかえると、再びその場から姿を消した。それにしても「こっちの世界」とは⋯⋯

 一体、なんなのか?

 追々、詳しく説明して行く予定である。

   :

 その一方、C子らの乗った潜水艦は、潜望鏡深度を維持しながら、惚気島の沖合で待機状態に入っていた。

「艦長、ソナーにスクリュー音⋯⋯水上艦艇、二隻。こちらに接近」

「ランカ、潜望鏡を上げて確認しろ」

「うぃっす!」

 乗員の大多数は獣人達であったが⋯⋯

 C子と航海長のおっさん、そして、この新人乗組員であるランカ・リー(19歳、なんか美少女)の三人だけが、人間であった。