第28話 奇薬

投稿日 2023.07.15 更新日 2023.07.15

初老の華僑はすべてを見透かしていたかのように言った
「生きていた頃⋯何かしました?」
「あ、いえ⋯その、薬物関係でちょっと⋯」
岩凪は言葉を詰まらせてしまい
不自然な間をおいた感じの不自然な返答になってしまった
「地獄行き確定の者を正規で受け入れてくれる国はユセリアだけじゃ」
「・・・」
「だから、切羽詰まってユセリア移民を希望しているんじゃろ?」
「いえ、別に地獄が怖い訳じゃないんです!!」
「ふむ、その目に嘘偽りはなさそうじゃな⋯他に何か訳がありそうじゃな」
初老の華僑は深いため息をつくと
次にこう言った
「到着予定地に笑わなくなる薬を売っている者がおる」
男性はメモにその連絡先と簡易な地図を書き
引きちぎって岩凪に手渡した
その代わりと言うか⋯お礼ではないが
岩凪はカバンの中に入れてあった
山荘でA子からもらったマフィンの一つを男性に差し出し
喜んで食べてもらえた
そして、到着までの間、しばし二人の間で
男同士の話で盛り上がった
美少女とか美少女とか美少女とか美少女とか美少女とか美少女とか
それはともかく
この初老の華僑の話によると
飲むと半永久的に笑えなくなる薬を作り出し
売っている者がこの先にいるらしい
名を「湯世林」と言い
恒華出身の風変わりな性格をした漢方薬剤師らしい
薬学部の学生で妙薬の研究に勤しんでいた自身の過去から
共感めいたものを強く感じた