第27話 笑いを忘れていた男
投稿日 2023.07.12 更新日 2023.07.15
岩凪はシャンプー市街地のバスターミナルに到着すると
ユセリアとピータンを唯一の陸路で結んでいる
国境沿いにある交通要衝地へ向かう高速バスに乗った
意外や座席は満席状態で
隣の席には華僑と称する初老の男性が座っていた
人付き合いの苦手な岩凪であったが
初対面の人物と何の抵抗感もなく会話ができてしまうくらい
純朴な青年でもあった
聞けば⋯貿易関係の仕事をしており
ユセリアから様々な農産物を輸入、ピータン国内の店舗に卸をしていた
「ユセリアって⋯いい国ですか?」
「ふむ、ええ国じゃ。じゃが、住むにはちとアレじゃ」
「自分はユセリアに移民しようと考えています」
「・・・」
なぜか意味不明な沈黙が続く
しかし⋯突然である。この華僑の男性が岩凪に向かって顔面ドアップ
何とも言いようのないヘン顔を見せつけて来た
突然の出来事に笑いを忘れていた岩凪の顔から満面の笑みがこぼれた
「ど、どどうしたんですか!!突然!?」
「・・・」
すると⋯華僑の男性は
今度は眉間にしわを寄せ真剣な面持ちに変わった
しばし不気味で異様な沈黙が続いた後
重い口を開くように言った⋯
「岩凪君と言ったかな?ユセリア移民はやめておきなさい」
「えっ!?どうしてですか??」
「今、君⋯笑ったよね」
「あっ!!」
「そう⋯ユセリアなら死刑じゃ」
A子からの忠告を今さらながら思い知らされた