タルパ戦争 File31 運命の歯車が動き出す時
浮島の父は目を閉じると、黙考を始めた⋯⋯
遠くの空から鳶の泣き声が鳴り響く。浮島は父の顔をただじっと見つめ、待ち続ける。しばらくすると、浮島の父は目をゆっくりと見開いた。
「譲司よ、お前からまだ迷いの心を強く感じる⋯⋯」
「これから僕が成し遂げようとしていることと関係がありますか?」
「今のままでは失敗する。わしの旧知に今のお前にぴったりな霊的修行を指南できる者がいる。紹介状を書くから⋯⋯それを持ってそこへ行きなさい」
「父さんでは手に負えない何かがあるのですか?」
「わしを疑っているのか?」
「あっ、いえ!違います!ただ、いつも通り父さんからと⋯そう思っていたので意外に感じただけです」
「ははは、いいか。譲司。霊能者にも個性があり得意、不得意を合わせて持つようになる。タルパと言ったかな?わしはその方面はあまり明るくない」
「わかりました。それは⋯⋯だいぶ遠いところですか?」
「うむ、青森県の恐山にいる方だ。まぁ⋯⋯その人はイタコだ。紅玉を名乗った女性だ。聞けばチベットにも行ったことがあるらしい」
「それは本当ですか!」
「チベットの話は噂に過ぎないが⋯⋯彼女の霊能力は確かなものだ」
浮島は父からの紹介状を受け取ると⋯⋯
真っ先に京都駅に向かい、ひとまず、東京へ戻ることにした。木口と相談した後、青森県へ赴くことを考えた。
それは帰りの新幹線の中で起きた出来事だった⋯⋯
空いていた隣の席に、突然、体格の良い⋯⋯浮島より一回り年上の男性が座り込んできた。東京へ向かうビジネスマンだろうか⋯⋯
しかし、妙な殺気を感じる。
浮島は窓の外に顔を向け、気にしない振りをする。
その直後である⋯⋯
「なっ!!これは⋯⋯」
浮島の体はガクガク震え出し、強制的にダイブ状態にさせられた。
「突然こんなことを仕出かして申し訳ない。君は霊能者だね?」
気が付くと⋯⋯浮島の隣に座り込んで来た男性が、ダイブを経由する形で自分に対してメッセージを送って来た。
「あなたは一体何者⋯⋯で、ですか?」
「安心して欲しい。君に危害を加えるつもりはない。ただ、今正体は明かせない。今言えることは国ために働いている人間だと言うことだ」