タルパ戦争 File23 下りバトル
レゴは山の坂道をゆっくりと走らせていた。
今日はこのまま自宅へ直行して、明日の早朝配車に備え、早寝することに決めた。心霊タクシーは割の良い商売だった。目下、オカルト世界の富裕層を相手にした商売であったため、年収は数千万円にもなる。
一般人は決して乗せない。
その時である⋯⋯
バックミラーに後方から迫って来るオープンカーが映り込んでいることに気づいた。シーア・ケイト・イゾベル・ファーラーによく似た髪型をした若者が運転しており、あからさまな煽り行為をして来た。
「ちっ、なんなんだよ。お前に構ってる時間なんかねぇわ」
レゴは素早くギアチェンジして、アクセルを力いっぱい踏み込み⋯⋯
「ふん、俺の腕にはついて来れまい⋯⋯この山の蛇行する下り坂道でこんな真似できるのは俺くらいだ」
そして、ドリフトさせながらコーナーターンを決めた。
しかし⋯⋯
オープンカーは食らいつくよう、レゴの車に追って来た。次のコーナーで見事に内側を取られて、心霊タクシーとオープンカーが並走する。
「なっ!こいつ!一体⋯⋯て、俺、逆走状態やん!」
レゴはブレーキを踏んでスピードを緩めた⋯⋯そして、今度はオープンカーに前方を塞がれる。
そして、二台とも停車した。
どうやら、オープンカーを運転していた若者は男性のようだ。降車して来ると、レゴの車に近づいて来た。緊張が走る⋯⋯
レゴは運転席横のウィンドウを半分だけ下げる。
「お前、一体、何の真似だ?」
「わしの勝ちじゃな」
「⋯⋯」
直後、この若者の背後に霊が憑いていることに気づいた⋯⋯長身の女性と思しき背後霊であったが、どうも、死霊とは違う様子だった。
「まさか、お前さんの背後に憑いているのは⋯⋯」
「なるほど、やはり⋯⋯見えるのじゃな?流石は噂に聞く心霊タクシーじゃ」
「俺に一体何の用だ?車の競争では俺の負けでいい⋯だが、タルパに関してなら手加減しない。後悔するぞ」
「何、今日は挨拶までじゃ!楽しかったぞ!それじゃ!」
この広島弁を話す若者は⋯⋯
そう言い残すと、激しいスキール音を立てながら車を急発進させ、あっと言う間に、レゴの視界から消え失せた。
「挨拶って何だよ?」