タルパ戦争 File21 異世界トリップ
浮島も本名は知らなかった⋯⋯
このレゴと言う初老の男性は、タルパ界隈創世期における人気者として注目をを集めていた。そして、当時のレゴの立ち位置、ポジションを、今は浮島が占める形となっていた。
タクシーは一路、嵯峨野に向けて走る。
「噂じゃだいぶ人気らしいね。ただ⋯⋯例の件は残念だったな。あれは浮島君は悪くないと思うよ。タルパは自己責任だ」
例の件とは⋯⋯
浮島が主催しているオカルト研究会メンバー自死の件だ。
浮島は一瞬、目を潤ませる。
「僕は⋯⋯レゴさんのように弾けることができない。つくづく、こんな不器用な自分を恨めしく思います」
「そんなことないさ。上手い具合に界隈を盛り上げていると思うよ」
「ただ⋯怖いんです」
「怖い?」
「どれほどの人間が⋯⋯真実を語っているのか不安なんです」
「あーいるよね。人の話に調子合せているだけのヤツ⋯でも、それはしょうがないよ。そういうヤツ、どうしても一定数出て来る」
車中でそんな感じの二人の会話が続いた⋯⋯
そうこうしているうちに、嵯峨野を通り過ぎ、山中の道へ入り始めた。蛇行する山道を登って行く。
「この辺りだったな⋯⋯」
レゴはそう呟くと、アクセルを強く踏み込みスピードを上げる。タイヤから凄まじいスキール音が鳴り響かせながらハンドルをさばく。
ドリフトする要領で現実世界から異世界へトリップさせた。
次の瞬間、タクシーは荘厳な神殿の前に到着、停車した。今しがたまで、何もない辺鄙な山道を走っていたのだが⋯
一瞬で場面が切り替わった。
「じゃ、運賃の請求は実家の方でいいね」
「はい、親父が喜んで払ってくれます。ここへ来るための利用なら」
「明日の朝、また迎えに来るよ」
「宜しくお願いします」
レゴは浮島を降車させると、再び激しいスキール音を立てながら、現実の京都の方へドリフトして消えていった。
浮島はレゴのタクシーを見送ると、後ろを振り返り、許嫁の住まい、実家に相当する大神殿を見上げる。
「さて、行くか⋯⋯」
浮島は神殿の中へ向かう。
まるで平安時代の大屋敷を思わせる神殿だった。気がつくと、回廊で一人の妖艶な美女が佇んでいた。