Episode 07 絶体絶命

投稿日 2024.04.25 更新日 2024.04.25

 両手で腹を抑えながら、床に崩れ落ちるトットフォー⋯⋯

 床一面は見る見るうちに真っ赤に染まり始める。

 トットフォーは治癒魔法を発動させようと試みるも⋯⋯

「この神殿内では魔法は使えないわよ」

 マーヤを無言で睨みつけるトットフォー⋯⋯

 イワナ・マーヤはトットフォーの師匠であったが、国に対する考え方の違いから、次第に距離を置くようになっていた。

 また、最先端の科学技術を、エルフの生活文化に率先して取り入れようとしていたマーヤの考え方にも、トットフォーは強い反感を抱いていた。

「マジックキャンセラーという魔法を無力化する装置が起動しています。ここで魔法は使えません。せめて、これを口に咥えていなさい⋯⋯」

 マーヤはトットフォーの口の中に鎮痛成分のある薬草を押し込んだ。

「それで痛みは和らぎます⋯⋯本当にごめんなさい。フォーちゃん、死んで」

 マーヤは玉座に戻ると、涙を流しながら天井を見上げた。

「フォーちゃん、今も私にとって可愛い教え子ですよ。だからこそ、死んで」

「ふがーふぉごぉおおおおお!!」

 口の中に薬草を押し込められて、上手く話すことのできないトットフォー⋯⋯

 ただ、怒り狂っているのだけは確かなようだった。

 トットフォー、絶体絶命のピンチである。

 床の上に完全に倒れ込み、マーヤが立ち去って行く姿を見えた。一人、広い謁見の間に取り残されたトットフォー⋯⋯

「あたすごほですねな(私ここで死ぬの)?」

 すると、視線の先に何か動くものが見えた。黒光りするアレだ⋯⋯

「ぶはぁああ!!」

 トットフォーは薬草を吐き出す。

「ゴ、ゴキブリ?もう、この際だ!お前でもいい!私を助けろ!」

 魔法を行使するにはオーラが必要だ。マジックキャンラーはそれを吸引しているだけに過ぎない空気清浄機みたいな装置だ。床付近にはかすかにオーラが残されていた。蟲魔法程度なら行使できそうだった⋯⋯

「おい、ゴキブリ!こっちへ来い!早く!」

 二本の触角を可愛らしくフリフリして、トットフォーの顔面近くに寄る。

「あとで何でも好きな食べ物あげるから⋯⋯キンカに知らせて!」

 ゴキブリはうなずくと、窓の外へ飛んで行った。