Episode 07 絶体絶命
両手で腹を抑えながら、床に崩れ落ちるトットフォー⋯⋯
床一面は見る見るうちに真っ赤に染まり始める。
トットフォーは治癒魔法を発動させようと試みるも⋯⋯
「この神殿内では魔法は使えないわよ」
マーヤを無言で睨みつけるトットフォー⋯⋯
イワナ・マーヤはトットフォーの師匠であったが、国に対する考え方の違いから、次第に距離を置くようになっていた。
また、最先端の科学技術を、エルフの生活文化に率先して取り入れようとしていたマーヤの考え方にも、トットフォーは強い反感を抱いていた。
「マジックキャンセラーという魔法を無力化する装置が起動しています。ここで魔法は使えません。せめて、これを口に咥えていなさい⋯⋯」
マーヤはトットフォーの口の中に鎮痛成分のある薬草を押し込んだ。
「それで痛みは和らぎます⋯⋯本当にごめんなさい。フォーちゃん、死んで」
マーヤは玉座に戻ると、涙を流しながら天井を見上げた。
「フォーちゃん、今も私にとって可愛い教え子ですよ。だからこそ、死んで」
「ふがーふぉごぉおおおおお!!」
口の中に薬草を押し込められて、上手く話すことのできないトットフォー⋯⋯
ただ、怒り狂っているのだけは確かなようだった。
トットフォー、絶体絶命のピンチである。
床の上に完全に倒れ込み、マーヤが立ち去って行く姿を見えた。一人、広い謁見の間に取り残されたトットフォー⋯⋯
「あたすごほですねな(私ここで死ぬの)?」
すると、視線の先に何か動くものが見えた。黒光りするアレだ⋯⋯
「ぶはぁああ!!」
トットフォーは薬草を吐き出す。
「ゴ、ゴキブリ?もう、この際だ!お前でもいい!私を助けろ!」
魔法を行使するにはオーラが必要だ。マジックキャンラーはそれを吸引しているだけに過ぎない空気清浄機みたいな装置だ。床付近にはかすかにオーラが残されていた。蟲魔法程度なら行使できそうだった⋯⋯
「おい、ゴキブリ!こっちへ来い!早く!」
二本の触角を可愛らしくフリフリして、トットフォーの顔面近くに寄る。
「あとで何でも好きな食べ物あげるから⋯⋯キンカに知らせて!」
ゴキブリはうなずくと、窓の外へ飛んで行った。