タルパ戦争 File08 狐娘
直後、心肺停止を知らせる警報音が廊下まで鳴り響く⋯⋯
浮島の顔から徐々に血の気が引いていく。遠方から駆けつけて来た親族も到着していたらしく、周囲がざわめき出し始めた。
「頼む⋯⋯戻って来てくれ」
浮島は両手を力強く握りしめ願った。
しかし、懸命の処置の甲斐なく、そのまま帰らぬ人となってしまった。
浮島はその場でただ呆然とし続けた⋯⋯
朝になると木口や他のメンバーもやって来た。亡くなった仲間の親族と挨拶を交わすと、浮島を立ち上がらせ、そのまま病院を後にしようとした。
「浮島さん⋯⋯あんたが悪い訳じゃない」
オカルト研究会の誰かが、浮島に対して小声でそう諭して来た。
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除菌室の中で、木口の突然の感情的な豹変に驚く浮島⋯⋯とりあえず、もう一度、屋上へ戻ることにした。
木口の取り乱した姿を他のメンバーに見せる訳にもいかない。
二人は再び屋上へ上がる。
浮島は晴天の青空を仰ぐように言った⋯⋯
「なぁ、木口君。誰か好きな人とか、付き合っている人はいないのかい?」
「なんだよ⋯⋯突然、そんなこと」
「いや、京都の実家の方にね。実は僕の許嫁がいるんだ。親父が勝手に決めた人でね。やっぱり、強い霊能力がある」
「あれ、浮島さん⋯⋯狐娘のタルパと契りを交わしていましたよね?」
「ごめん、僕のタルパの正体は⋯⋯実は許嫁の生霊なんだ。最初は僕が東京で女を作らないように監視するため、飛ばされて来たものだったんだけど」
「えっ?でも、じゃ⋯⋯」
「でも、彼女の生霊との間でできた誕生型は本当にタルパさ」
「生霊との間でって⋯⋯これまたすごい成功事例になりますね!」
「霊能者同士の遠距離恋愛はこうしたことも起きるらしい。もちろん、帰省した時は時も⋯⋯だけどね。真っ先に彼女のところへ向かわないと祟られる」
浮島は欄干にもたれながら、そう苦笑した⋯⋯
「木口君は普通の恋愛をしろよ」
「うーん、でも、なかなか相手が見つからないな⋯⋯」
「あれ?僕の霊感で木口君から女性の念をかすかに感じていたけど。野暮だと思って黙っていたけど」
「えっ?今付き合っている人いないけど」
不可思議な表情になる木口。