タルパ戦争 File03 友のために

投稿日 2024.03.27 更新日 2024.03.27

 木口は帰りの電車内で、つり革からぶら下がるように掴まり、流れ行く車窓を漫然と見つめ続け、考え事に耽っていた。

 架空のタルパーをでっち上げるのはリスクがある⋯⋯

 ならば、自分自身のタルパが暴走したことにすればいい。他にやり方はないかいろいろ考えたが⋯⋯

 その際、自身のタルパにも協力してもらうつもりだ。

 ウソの情報は自分が撒けばいい。

 木口はこれが一番リスクが低く妥当な方法だと結論づけた。

「正直、僕は浮島さんの計画には反対だけど⋯⋯絶対にやるだろう。浮島さん一人だけに背負わせる訳にはいかない」

 木口はそう決心した。

 木口もタルパ界隈ではそこそこ知られた人物である。

 架空のタルパーの架空のタルパでやるよりは、実在するタルパーの実在するタルパで演じて見せてやった方が、見破られにくいだろう⋯⋯

 とりあえず、明日も大学のサークル部屋で、この件について二人で議論する予定だ。そこで提案しよう。

 浮島から断られても、食い下がるつもりだ⋯⋯

 タルパ界隈は⋯⋯

 おかしな同調圧力に支配された世界に変わりつつあった。

 浮島の提唱したダイブを活用したタルパ錬成術、邂逅型も⋯⋯わずか1~2週間ほどで、再現できたと称する者が続出した。

「ダイブも邂逅型もそうかんたんに実現できるもんじゃない。ファッションタルパーだらけじゃないか」

 木口はそう憤り、つり革を力強く握りしめた。

「零⋯⋯すまない、君の協力も必要だ」

「いいよ。君の大切な友は僕の大切な友だ。喜んでやるよ」

 木口は自身の心の奥底に潜む存在から承諾を得る。

 そう、零は木口のタルパである。

 木口の場合、浮島の教えに従い、ダイブで邂逅した存在となる。

 内在的でイマジナリーフレンドのような感じであったが、非常に強力なタルパとして育っていた。

「後は⋯⋯浮島さんをどう説得するかだな」

 一人ですべて抱え込もうとするところは、浮島の悪いところだった⋯⋯ 

 気がつけば、もう間もなく下車する予定の新宿だ。木口はそこで小田急線に乗り換える。木口の自宅は小田急線沿線の閑静な住宅街にあった。

 そして、新宿駅に到着。降車するため、木口はドアへ向かう⋯⋯