タルパ戦争 File03 友のために
木口は帰りの電車内で、つり革からぶら下がるように掴まり、流れ行く車窓を漫然と見つめ続け、考え事に耽っていた。
架空のタルパーをでっち上げるのはリスクがある⋯⋯
ならば、自分自身のタルパが暴走したことにすればいい。他にやり方はないかいろいろ考えたが⋯⋯
その際、自身のタルパにも協力してもらうつもりだ。
ウソの情報は自分が撒けばいい。
木口はこれが一番リスクが低く妥当な方法だと結論づけた。
「正直、僕は浮島さんの計画には反対だけど⋯⋯絶対にやるだろう。浮島さん一人だけに背負わせる訳にはいかない」
木口はそう決心した。
木口もタルパ界隈ではそこそこ知られた人物である。
架空のタルパーの架空のタルパでやるよりは、実在するタルパーの実在するタルパで演じて見せてやった方が、見破られにくいだろう⋯⋯
とりあえず、明日も大学のサークル部屋で、この件について二人で議論する予定だ。そこで提案しよう。
浮島から断られても、食い下がるつもりだ⋯⋯
タルパ界隈は⋯⋯
おかしな同調圧力に支配された世界に変わりつつあった。
浮島の提唱したダイブを活用したタルパ錬成術、邂逅型も⋯⋯わずか1~2週間ほどで、再現できたと称する者が続出した。
「ダイブも邂逅型もそうかんたんに実現できるもんじゃない。ファッションタルパーだらけじゃないか」
木口はそう憤り、つり革を力強く握りしめた。
「零⋯⋯すまない、君の協力も必要だ」
「いいよ。君の大切な友は僕の大切な友だ。喜んでやるよ」
木口は自身の心の奥底に潜む存在から承諾を得る。
そう、零は木口のタルパである。
木口の場合、浮島の教えに従い、ダイブで邂逅した存在となる。
内在的でイマジナリーフレンドのような感じであったが、非常に強力なタルパとして育っていた。
「後は⋯⋯浮島さんをどう説得するかだな」
一人ですべて抱え込もうとするところは、浮島の悪いところだった⋯⋯
気がつけば、もう間もなく下車する予定の新宿だ。木口はそこで小田急線に乗り換える。木口の自宅は小田急線沿線の閑静な住宅街にあった。
そして、新宿駅に到着。降車するため、木口はドアへ向かう⋯⋯