第97話 エルフの女王
穂都は不安の中、眠りについた⋯⋯
窓からは月明かりが差し込んでいた。どうやら、今日は満月らしい。
以前にも同じことはあった。朝になれば帰って来るだろう⋯⋯今はそう信じて、寝ることにした。
穂都は寝付きの良い方だった。しかし、まどろみの中、どこからともなく、可愛らしい女の子の声が聞こえて来た。
「おーい!あたいはここだよ!」
「!?」
穂都は驚き、一瞬で目が覚める⋯⋯
部屋の中をきょろきょろと見渡すも、声の主と思しき姿はどこになかった。しかし、口癖のようなものから、エシャロットにも思えた。
「エシャロット?やだ⋯ただの入眠時幻覚かしら⋯⋯」
「ここだよ!」
「えっ!?」
なんと⋯⋯
本棚の空きスペースに置かれていた人形から聞こえて来た。
穂都はベットから立ち上がり、本棚のところへ歩みより人形を手に取る。しかし、気になる点は何もない⋯⋯いや、間違いなく、この人形が話しているように聞こえていた。
ちなみに、人形は穂都が幼い頃、父から誕生日プレゼントとして貰ったフランス人形だった。10歳くらいの少女を模した可愛らしい人形だった。
「まさか⋯やっぱり、ただの入眠時幻覚ね」
穂都はそう気を取り直し、人形を元の位置に戻した。そして、再びベットの中に入ると、深い眠りに落ちて行った。
だが⋯⋯
人形の瞳が微妙に動いていた事に気づかなった。
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その晩、穂都はこんな夢を見た。明晰夢ではない⋯⋯
広大な砂漠の中にあるオアシス都市にいる夢だ。自分はエルフとなり、大きなモスクのような建物の中にいた。
ドームの中で一人祈りを捧げる⋯⋯
「私のことを現実逃避とか妄想とかなりきり乙とバカにして来たワタシノフスキーに裁きの鉄槌が下りますように!」
穂都は幼い頃からエルフに強い憧れを頂いており、時折、夢の中でもエルフとなることがあったのだ。
ふと、気がつくと⋯⋯
ドームの壁際で自分の方を見つめるように立っていた少女に気づいた。そして、両手に可愛らしいウサギを抱えていた。
妙な親近感を覚える。
ただ、夢の中で何と話しかけたのかまでは⋯⋯
次の日の朝には忘れてしまった。