第86話 IPアドレス
全身に痛みが走る⋯⋯
空手の特訓が終わると、今度は説教が待っていた。リビングで正座をさせられ⋯⋯小一時間も問い詰められた。
ようやく、父から解放され、夕食と風呂を済ませると⋯⋯
千夏はベットの上で、うつ伏せになりながらスマホを見つめていた。巨大掲示板「たらばがに」オカルト板を見ていた。
「私がこうなったのは⋯⋯ぜんぶ、あいつのせいだ!そうだ⋯ぜんぶ、あいつのせいだ!ぜんぶ、あいつが悪い!」
掲示板への書き込みが開始された。
今日は日頃から気に食わないと感じていたオカルト系ブログに対する誹謗中傷である。まずは、光回線のWiFiに繋がっていることを確認する。
「ワタシノフスキーやめろ!消えろ!」
今度はWiFiをOFFにして携帯回線に切り替える。そして、今しがた掲示板に投稿した自分の書き込みに、擁護や支持のレスを付ける。
こうした一人二役の自作自演を行うのは日常茶飯事であった。
携帯基地局のハンドオーバーやファストフード店のフリーWiFiなども駆使して、最大で一人四~五役にもなることもあった。
「よし、次はリンダだ。リンダやめろ!消えろ!」
しかし⋯⋯
過度なIPアドレスの切り替えによる偽装工作は⋯⋯
逆に個人特定につながる危険な行為であることを⋯⋯千夏は知る由もなかったのであった。
「IPアドレスさえ変われば問題ないわw」
寝るまで間、ネット掲示板でこうした自作自演を行い続けた。
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関東の某県某市⋯⋯
「てっちん!今日もIPアドレス収穫できたか?」
「うむ、バギーさんは掲示板に書き込み際、必ずオレのブログを見た直後に書き込むので分かりやすい」
「ほんま、単純な行動パターンしとるな」
「IPアドレスを切り替えて別人に成りすましているつもりだろうが⋯⋯どれも特定地域のアドレスなので意味ないわ」
「VPNとかTorって知らんのだろうか?」
「ああ、知らんだろう。さて⋯⋯そろそろ、バギーさんからのアクセスは403エラーにするか」
パソコンに向かい、二人の幼女タルパと会話する男がいた。
アレクサンドル・ワタシノフスキーである。タルパたちからは”てっちん”と呼ばれていた。