第84話 父と娘のスキンシップ
ようやく、定時を迎えた⋯⋯
千夏は休憩室で放心状態となっていた。
「今日一日ごくろうさん!」
茂夫から労いの言葉をかけられるも反応がない。茂夫が千夏の顔の前で手をかざすように振ると、はじめて反応が返って来た。
「はっ!あ、すみません!すみません!すみません!」
「⋯⋯」
「すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!」
「ちょ、千夏ちゃん!落ち着いて!今日はもう終わりだから!」
「あっ!あ、えっと⋯」
凄まじく心配になる茂夫⋯⋯
茂夫はこれから本社ビルへ戻るため、店舗から車で出ようとしていたところだった。あまりにも不安なので、ついでに自宅まで送ることにした。
いちおう、親友の大切な娘である⋯⋯
が、これが千夏にとって仇となることは⋯⋯この時点で、岩鉄と長年の付き合いのあった茂夫ですら、予測できなかったのであった。
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20分後、千夏を乗せた茂夫の車が豈井家前に到着。
「じゃ~今日はお疲れ!」
「送ってくださってありがとうございます!」
「明日⋯⋯大丈夫?無理なら週2~3日でもいいよ」
その時である⋯⋯
千夏の背中に父、岩鉄の鋭い視線が刺さっていることに気づいた。
「いえ!週5日がんばります!明日もよろしくお願いします!」
「じゃ、今日はもうゆっくり休んでね」
バタン☆ブブーン
茂夫の車が去る。
千夏が恐る恐る、後ろを振り向くと⋯⋯
玄関のドアが徐々に開かれて行き、目を血走らせ仁王立ちした岩鉄が現れた。
「た、た、ただいま」
キョどる千夏⋯⋯
「車で送ってもらったのか?いい身分だなぁ」
「社長のご厚意を無下にする訳にいかなくて⋯⋯そのぉ」
次の瞬間⋯⋯
千夏は岩鉄から強烈な卍固めを喰らう。
自宅前の路上で父と娘のスキンシップが始まる。近所の住人たちも見慣れており、誰一人気に留める者はいなかった。
「丁重に断れよ!茂夫も忙しいんじゃ!ボケが!」
「ずびぱしぇんですだ(すみませんでした)」
顔を歪ませながら、悶絶する千夏⋯⋯
千夏は夕食前にも、岩鉄から空手の稽古を付けられたのであった。