第73話 ヘッドスライディングの女
そんなタルパを巡る世界情勢を他所に⋯⋯
日本の女子高生、夕菜はポンスケとの邂逅に歓喜していた。
これから、何をするにしても⋯⋯どこへ行くにも⋯⋯トイレ以外は常に一緒の関係となる。
それにしても⋯⋯
穂都とゴンからのDM返信がいつも以上に遅い。それが次第に気になり始めた。いつもは秒で返って来るのに、今日に限って二人ともである。
「二人とも⋯⋯何かあったのかな?」
「それは夕菜ちゃんのお友達?」
「うん、そうだよ!ポンちゃんもちゃんと紹介しておくね!」
「うれしい!」
夕菜に甘えるポンスケ⋯⋯
ベットを背もたれの代わりにするよう、床の上で体育座りをする夕菜。スマホの画面を凝視し続けるが、二人からの反応はない。
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電車の座席で寝落ちしていたことに気づいた女がいた⋯⋯
「はっ!いけない!」
焦る、千夏⋯⋯
しかし、スマホの時計を確認すると、それほど時間は経っていなかった。随分と長い夢を見ていたように思えるのだが⋯⋯
直後、降りる予定の駅の到着を告げるアナウンスが鳴り響く。
遅刻をしたら⋯⋯
父、岩鉄の制裁が待っている。
千夏は急いで座席を立ち上がり、ドアポールのところへ移動する。しかし、ここではっとする。車内を見渡しても⋯⋯夢の中で見た、あの怪しげな男性はどこにもいなかった。
「やっぱり、ただの夢よね⋯⋯」
車窓からの眺めは、いつもと変わらぬ横浜の街並みだった。遥か彼方にはランドマークタワーが霞んで見えた。
電車は徐々に減速し始める。もうすぐ到着だ⋯⋯
そして、ホームに入り込んだ瞬間である。
目の前のドア窓に、自分の背後で不敵な笑みを浮かべ立っているあの男の姿が映し出された。パックマンである。
千夏は驚いて振り向くも⋯⋯そこには誰もいなかった。
電車が完全に停止してドアが開くも、何か後ろ髪でも引かれるような思いになりながら電車から降りる。
「うわっ!」
千夏は考え事をするあまり転倒⋯⋯
ホーム上でヘッドスライディングをして大の字になる。
《乗り降りの際は足元にご注意ください!!》
駅員の非情なアナウンスが流れる。