第63話 ダイブ体
ゴンとの出会いは⋯⋯
文子の場合も明晰夢の中であった。
文子は明晰夢の中では⋯⋯いわゆる「ダイブ体」と呼ばれるものだが、男性の姿をして楽しんでいた。憧れの芥川龍之介の姿となり、倉臼文磨と名乗っていたのだ。ちなみに、〇豪〇トレイドッグスのアンチである。
まぁ、そんな話はともかく⋯⋯
つまり、ゴンも邂逅型のタルパということになるのだが⋯⋯実は、そういう事にしてあるだけに過ぎなかったのだ。
ゴンの正体は神霊だった。
江戸時代、日本のとある農村の小さな神社の祭神として祀られていた管狐の妖精であった。それを文子が⋯いや、倉臼文磨として、明晰夢の世界で召喚しただけに過ぎなかったのだ。
魔術は現実世界でやるよりも⋯
明晰夢の中でやる方が格段に効果があった。暗記した召喚魔法を明晰夢の中で実行して、ゴンを自分のところに呼び寄せたのだ。
ゴンはある想い人と二人きりで過ごしていたところ⋯⋯
無理矢理、文子に召喚させられたことに立腹した。しかし、時が経つにつれて、互いに打ち解け合う仲までとなり今に至る。
「ゴン、あの時は本当にごめんね」
「いいんだ!玉ちゃんはもう別の人生を歩んでるしね。これで良かったんだ!」
文子はゴンを抱きしめ続けていた。
「それより、この先、どうするの?」
「うん、お父様の言うことはもっともだわ。お見合いをするわ」
「そっか、でも、結婚しても執筆は続けて行くんだよね?」
ゴンのこの言葉に文子は押し黙る⋯⋯
「ごめん、もう⋯⋯私、限界かもしれない」
「⋯⋯」
精一杯、応援していたつもりであったが⋯⋯
ゴンは自分がマスターである文子に、要らぬプレッシャーを与えて続けていただけであったことを悟った。
「ごめん、ごめん、ボクは⋯⋯」
「ううん、ゴンは何も悪くないよ!気晴らしにパチンコ行こっか?」
「そ、そうだね!パチンコ行こう!」
文子は大学卒業をしてから、しばらく、総合商社で働いていたため、貯金はそこそこあった。
いや、パチンコで増やしていた。
そう⋯⋯文子のもう一つの顔はパチプロであったのだ。
「今日は〇イナムへ行くわよ!」
途端に元気になる文子だった。