第33話 最初で最後の就職活動
千夏は履き慣れないパンプスで足を痛める⋯⋯
「お父さん!ちょっと待って!歩くの早い!足が痛い!」
「就職活動しとらんかったお前が悪い!」
「だって⋯⋯」
就職活動をまったくする気のない娘を憂い、岩鉄は知り合いの会社に入社させようと、先方と話を付けていたのだ。
後は、本人次第である⋯⋯
そうこう親子で喧嘩しながら歩いているうちに目的地に辿り着いた。
なんなん商事は、横浜市内にある食品卸の会社で、千夏の通う学校の学食にも、食材を販売していたのだ。
従業員50人ほどの小さな企業であったが、なんなん商事の社長である南難茂夫は、やり手の人物として市内の企業家たちの間で定評があった。
岩鉄とは高校時代の同級生で、岩鉄は空手部、茂夫は応援団と⋯⋯共にライバル校と戦った戦友と言えるだろう。
時に、鉄パイプまで持ち出すこともあったが⋯⋯
そう、二人は不良のエリート校と称された凸都館高校出身だった。いずれ、スピンアウト作品として、ウィキンズ学園高校との死闘を描く予定。
本作品は、オカルト世界のどこかの界隈を揶揄った冗談小説で、もはや、オカスピ小説ではないな(遠い目)
まぁ、そんな話はともかく⋯⋯
千夏は泣きそうな顔になる。
目的地とされる場所はオンボロの雑居ビルで、窓から積み上げられた段ボール箱が丸見えの状態だった。
「何これ!オンボロじゃん!」
直後、岩鉄の拳が千夏の後頭部を直撃する。
千夏は痛む頭を手で押さえながら、岩鉄に連れられビルの中へ入る。
誰もいない受付窓口に来ると、岩鉄は卓上に置かれていた内線電話を手に取り、どこかへ電話をする。
「本日、社長と面会予定のある豈井と申します⋯⋯あっ、はい、お願いします」
ガチャ☆
「ほれ!すぐに迎えが来るぞ!しっかりしろ!」
「ぐすん⋯⋯」
父に言われるがまま、髪と服装を整える千夏⋯⋯
程なくして、廊下の奥から走る足音が鳴り響いて来た。建物内は静寂に包まれ、どこかの部屋にいる⋯おっさんのくしゃみまで聞こえた。
「よお!久々だな岩鉄!」
「おお!茂夫!今日は本当にすまない」
そんな感じで、岩鉄と千夏は応接室へ案内された。