第29話 それぞれの夜
時刻は深夜の11時を回ろうとしていた⋯⋯
机の上で大きなあくびをする夕菜。
「ふーう、今日も勉強よく頑張ったな。もう眠いから寝るか。その前に⋯⋯」
夕菜はスマホを手にするとXへアクセスした。トットフォーやリンダの動きが気になっていた。
夕菜は、自身のXアカウントのプロフィール画像に、キャラメーカーで作成したポンスケとのツーショットを設定していた。そして、名前は普通に「夕菜」と付けてしまっていた。
後にそれが原因でトラブルに巻き込まれる事となる⋯⋯
「うふ、リンダさん面白い!」
リンダのポストにいいねボタンをつける。
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布団の中でうずくまり、スマホを凝視する女がいた。
「くそっ!こんなやつのどこが面白いんだ!」
リンダのポストにいいねボタンを押した者たちに対して、怨嗟の気持ちを顕にする千夏。爪を噛みながら、歯ぎしりの音を立てる。
「夕菜?なんだ、こいつ?ああ、最近、界隈にデビューしたアホか」
次第に千夏の目つきが変わり始める⋯⋯
「そうだ、こいつは少しここで実の程を解らせておいた方がいい」
低い男性のような声を出す千夏。
「我は信長様の命を受け、世界を正しい方向に導くものなり」
ベットから勢いよく飛び上がると、たらばがにへアクセス⋯⋯夕菜に対する誹謗中傷を開始した。
「夕菜、やめろ、消えろ⋯⋯と」
次の瞬間、ドアのノックがなる。
今の千夏は森蘭丸である。
「うむ、苦しゅーない!入ってよし!」
しばしの静寂の後⋯勢いよくドアがけ破られた。そして、目を血走らせた岩鉄が立っていた。
「誰が苦しゅーない入ってよしだ?スーツはちゃんと用意してあるのか!」
岩鉄が千夏の部屋を見渡す。
が、リクルートスーツらしきものは⋯⋯どこにも、ぶら下がっていない。
岩鉄は千夏にスリーパーホールドを噛ますと、首を前後左右激しく揺さぶりながら、千夏の耳元でがなる。
「明日は八時に出発するぞ、今すぐスーツを準備しておけドアホ!」
「ひゃい(はい)、ははるまはた(わかりました)」
それ以降、たらばがにオカルト板での誹謗中傷はぴたりと止まった。千夏は完全に気を失い倒れた。