第28話 乙女の恥

投稿日 2024.01.05 更新日 2024.01.06

 巨大掲示板「たらばがに」のオカルト板には⋯⋯

 タルパ界隈ヲチスレなる悪趣味なスレがあり、日夜、誹謗中傷と罵詈雑言、あからさまな自作自演が行われ続けていた。

 しかし、どういう訳か⋯⋯

 普段以上に沈静化していた。

 これから夏休みである。もっと、荒れてもおかしくない。

 それもそのはずである。原因となる人物が、現実生活で大きな事件を引き起こし、それどころでない状況となっていたからだ。

「リンダのせいだ!全部、リンダが悪い!」

 顔にモザイクがかけられていたとは言え⋯⋯わかる人には、千夏とわかる映像だった。あの後、電車が緊急停止する形ともなり、警察にも身柄を取り押さえられ、自宅はもとより学校にまで連絡が行ってしまったのだ。

 とりあえず、警察から厳重注意を受けるに留まり、鉄道会社もよくある出来事と、この件でこれ以上、咎められることはなくなった。

 千夏は、自室のベットの上で、丸くなるように布団を被っていた。

 その時、ドアのノックが鳴る。

「千夏、入るぞ」

 父、岩鉄の声である。

 布団に包まり続ける千夏⋯⋯

「もう!私に構わないで!」

「ええ加減んせい!」

「ぐほぉ」

 岩鉄のかかと落しが千夏の横っ腹を直撃する。

 岩鉄は空手の有段者で、娘を甘やかして育ててしまったことを後悔し、最近はこのようなボディランゲージで我が子とのコミュニケーションを図る方針に特化していた。

「おい、明日、俺と一緒に出かけるぞ」

「痛い!」

「痛いのは生きている証拠だ!」

「そのうち就職課に行くからほっといて!」

「どほぉ」

 再び、岩鉄のかかと落しが千夏を直撃する。

「もう、就職課は行かなくていいぞ」

「???」

「リクルートスーツ、ちゃんと、用意しておけ」

 岩鉄、曰く。

 知人の会社に就職させるので、そこで我慢しろとの話だった。

 千夏はベットから起き上がり、父を見つめる。

「なんなん商事って知ってるだろ?あそこの社長、俺の高校時代の同級生や!」

 なんなん商事は、横浜市内にある食品卸の会社だった。とりあえず、明日、なんなん商事の社長と会う約束を取り付けて来たとのことだった。