第01話 運命の瞬間
一学期の期末テストも無事終わり、日がな週末の午後を、自宅でゆっくり過ごしていた夕菜⋯⋯
もうすぐ、楽しい夏休みもやって来る。
「今年の夏は何をやろうかな⋯⋯」
自室のベッドの上で寝転びながら、愛読書であるオカルト雑誌「モー」を読み耽っていた。先日、駅前の書店で買って来たものだ。
彼女の生活行動範囲は狭かった⋯⋯
出不精ではないが、電車やバスでの移動は苦手としていた。このため、高校は自宅から歩いて数分のところにある都立高へ進学したし、大学は自分の部屋の窓からも見える立教大学へ行くのが夢だ。
そんな話はともかく⋯⋯
モーの今月の総力特集の見出しに釘付けとなる。
「これがチベット密教の秘奥義だ⋯⋯人工精霊タルパの作り方?」
初めて聞く耳慣れない言葉に、夕菜は心を躍らせ、食い入るように記事を読み漁る。そして、読み終えると何かに達観したかのように、ベッドから立ち上がり、窓を全開して空を見つめた。
「これだわ!」
チベット密教の秘奥義、タルパとは⋯⋯
瞑想で意識を集中させて、何もない「無」の空間から、一つの独立した意思を持つ存在、架空の命を作り出す技である。
早い話、幽霊を作ろう!と言うものになる。
本来、チベット密教の僧侶が、修行の成果を極めた証として実践するものであるが⋯⋯日本の一部のオカルトマニアの間で、イマジナリーフレンドの代替的な遊びとして密かに流行っていたのだ。
西洋魔術の世界で語られているような降霊術と似てはいるが⋯⋯
召喚魔法の類ではなく、自分の望む容姿と性格をしたものを自由自在に決めることができるらしい。
早速、夕菜はタルパについて詳しく知るため、スマホで検索してみることにした。検索結果の画面スクロールを続ける夕菜⋯⋯
「う、うんこ⋯⋯運光の法力?なんじゃこりゃ?」
意外に多くはあったが⋯⋯
奇妙なサイト名をしたブログの記事ばかりヒットしていた。
「変なもんと関わりたくないわ!パス!パス!」
とりあえず、検索結果の先頭に戻り、しばし黙考する夕菜⋯⋯
「タルタルアンテナ⋯⋯これが良さそう」
それはタルパに関するブログの最新情報が、一目でわかりやすくまとめられた情報サイトだった。