第24話 酒酒死す

投稿日 2023.07.09 更新日 2023.07.09

結局、A子は一睡もすることができず
そのまま朝を迎えた
食堂のカウンター席で一人呆然と座っていた
テレビからは相変わらず
地獄航空墜落事故の件が延々と報じられ続けていた
時刻はまだ6時前の早朝であったが
いつも通り食堂では朝食の準備が進み
厨房では前日に仕込まれたパン生地を焼く作業が始まっていた
次の瞬間、山荘の正面扉が開かれ
誰かが入ってきた
「まだ開店準備中やで、パンなら⋯」
「俺だよ、A子ちゃん」
巡査である
また聞き込みかと思っていたが⋯
巡査はA子の隣に座るとコーヒーくらいは出せるだろと焙煎機を指差した
実際、A子自身も今コーヒーを飲んでいたところだ
しぶしぶ注文を受け付け
席を立ちカウンターの内側へ入った
巡査は言った⋯
「なぁ、A子ちゃん。善意は時に残酷な結果にもなるんだぜ」
「・・・」
巡査の意味深な言葉に黙るA子
巡査の話によれば
これから捜索活動が本格化するらしいが⋯
機体は山の斜面に激突して完全にバラバラな状態であるため
生存者がいる見込みはないとのことだった
巡査はコーヒーを飲み干すと去り際にこうも言った
「次からは俺を信じて頼ってくれな。じゃ」
A子は思わず泣きそうになり
シンクの中に猛烈な勢いで頭を突っ込み水道の蛇口を全開した