第25話 岩凪、国境へ⋯

シンクから頭を起こすＡ子
ちょうどその時⋯
カウンター前を岩凪が通りかかる
「Ａ子さん、一体どうしたんですか！？」
「顔を洗っていただけや」
「いや、髪の毛でも洗っていたようにしか見えませんけど⋯」
「ところでなんや？こんな早く、朝食は7時からやぞ」
「いえ、今日はちょっと遠くを散策してきます」
岩凪いわく
あの世へ渡る前に
ユセリアとの国境沿いにあるピータン王国の名所を
見学しておきたいとのこと
ちょっと遠いので朝食抜きで行く
帰りは夜遅くなるかもしれないので夕飯はいらないとのこと
これを聞いたＡ子は朝食抜きは体に毒だろうと
岩凪を少し引き止め
先日の余りものであるが⋯移動のバスの中でも食べられるものを
冷蔵庫の中から取り出し岩凪に手渡した
「マフィンですか！！大好物です！！ありがとうございます」
「どこへ行くのか知らんが気ぃつけてな」
もちろん⋯
岩凪の目的はユセリア移民の下調べである
交通至難な場所にある点は
実に不可解であり不安を覚えさせられるが
そこは目を瞑り
一度だけ移民受入センターなるところへ行って見て
話を聞いた上で決めようと考えていた
しかし⋯
出発間際の岩凪にＡ子が釘を刺す
「間違ってもユセリアのナントカセンターには行くなよ」