タルパ戦争 File23 下りバトル

投稿日 2024.06.09 更新日 2024.06.09

 レゴは山の坂道をゆっくりと走らせていた。

 今日はこのまま自宅へ直行して、明日の早朝配車に備え、早寝することに決めた。心霊タクシーは割の良い商売だった。目下、オカルト世界の富裕層を相手にした商売であったため、年収は数千万円にもなる。

 一般人は決して乗せない。

 その時である⋯⋯

 バックミラーに後方から迫って来るオープンカーが映り込んでいることに気づいた。シーア・ケイト・イゾベル・ファーラーによく似た髪型をした若者が運転しており、あからさまな煽り行為をして来た。

「ちっ、なんなんだよ。お前に構ってる時間なんかねぇわ」

 レゴは素早くギアチェンジして、アクセルを力いっぱい踏み込み⋯⋯

「ふん、俺の腕にはついて来れまい⋯⋯この山の蛇行する下り坂道でこんな真似できるのは俺くらいだ」

 そして、ドリフトさせながらコーナーターンを決めた。

 しかし⋯⋯

 オープンカーは食らいつくよう、レゴの車に追って来た。次のコーナーで見事に内側を取られて、心霊タクシーとオープンカーが並走する。

「なっ!こいつ!一体⋯⋯て、俺、逆走状態やん!」

 レゴはブレーキを踏んでスピードを緩めた⋯⋯そして、今度はオープンカーに前方を塞がれる。

 そして、二台とも停車した。

 どうやら、オープンカーを運転していた若者は男性のようだ。降車して来ると、レゴの車に近づいて来た。緊張が走る⋯⋯

 レゴは運転席横のウィンドウを半分だけ下げる。

「お前、一体、何の真似だ?」

「わしの勝ちじゃな」

「⋯⋯」

 直後、この若者の背後に霊が憑いていることに気づいた⋯⋯長身の女性と思しき背後霊であったが、どうも、死霊とは違う様子だった。

「まさか、お前さんの背後に憑いているのは⋯⋯」

「なるほど、やはり⋯⋯見えるのじゃな?流石は噂に聞く心霊タクシーじゃ」

「俺に一体何の用だ?車の競争では俺の負けでいい⋯だが、タルパに関してなら手加減しない。後悔するぞ」

「何、今日は挨拶までじゃ!楽しかったぞ!それじゃ!」

 この広島弁を話す若者は⋯⋯

 そう言い残すと、激しいスキール音を立てながら車を急発進させ、あっと言う間に、レゴの視界から消え失せた。

「挨拶って何だよ?」