Episode 04 未来に失望した科学者

投稿日 2024.04.20 更新日 2024.04.20

 トゥコ・サマン博士⋯⋯

 専門は航空宇宙工学で、ガ島に本社のあるTiguara Sea Technologiesの上席研究員である。同社は造船や海洋建設、海底掘削などを得意とする重工メーカーであったが、近年は航空宇宙分野への進出も顕著であった。

 ガトー公国の一大プロジェクトとなる宇宙軌道エレベーター建設計画にも参画予定である。同社は宇宙軌道エレベーターの基底部分と中継ステーションの建設、重力バランス機構の開発を担当する。

 サマン博士はガトー公国とヲティスタン政府の防衛協定に基づき、派遣された来た民間技術者という立ち位置であった。

 窓から滑走路を一望することのできる一室で、データの整理と仮分析の作業を進めるサマン博士⋯⋯

 彼の眼鏡にはパソコン上で開かれていた画面が映し出されいた。

 考え事でも始めるためだろうか⋯⋯椅子の背もたれに寄りかかり、宙をまんぜんと見つめる。

「今のこのトトバースを支えているものが、情報的な見通しの良さなのであれば、それは潰えるだろう⋯⋯」

 そんな風に小難しい独り言をつぶやく。

 デスクの上に置かれていた写真立てには、オレンジ色の髪をした愛娘の笑顔が写った写真が飾られていた。

 博士をそれを手に取ると、再び、悲しい表情になった。

「この子が大人になる頃には⋯⋯」

 今回の仕事内容はデータの収集と分析だ。

 そして、無人戦闘機の運動性能を最大限に発揮するため最適化されたAIの開発、納品だった。この仕事が終われば、宇宙軌道エレベーターの関連部署へ移動予定である。

 ヲティスタン共和国は多くの問題を抱えていたが⋯⋯

 北は強大な軍事力を誇るユセリアと接しており、その傀儡と化していたり、強い影響を受けた隣国と挟まれていたのだ。

 対外的な軍事力強化は避け難いものだった。

 トトバースは⋯⋯

 ガ島やピクシティ、ドツイタル、そして、このヲティスタンなどから構成される有志軍事同盟NATTO(ナットー)と、ユセリアを主体とするワイシャツ条約機構の二つの大きな勢力に分かれていた。

 そして、双方とも謎めいたマークを掲げていた⋯⋯

 NATTOは粘る変な何かをイメージさせるもので、ワイシャツ条約機構はアイロンだった。