Episode 03 亡国の王

投稿日 2024.04.19 更新日 2024.04.19

 ヲティスタン王国最後の王、ハワード王は聡明な君主だった⋯⋯

 文武両道な人柄としても知られ、若い頃はウィリアム王子のように、空軍のパイロットとして活躍もしていた。

 操縦を得意とする機体は多く、その腕前に衰えを見せない⋯⋯高齢の身であるにも関わらず、今もエース級の技量を維持していた。

 ヤマダハル郊外の試験飛行場の滑走路上で、ヘルメットを抱えながら空を仰ぐハワードがいた。

「いつの時代もこういうパイロットがいる。その全てを墜としてきたのだ。もちろん、女もな⋯⋯」

 これは彼のパイロットとしての矜持であり、男としてポリシーであったようだ。どうやら、女性に対する口説きの才能もあったらしい。

 空軍時代のTACネームはハメヒ⋯⋯

 表向き、ハワード王は現政府軍との争いで戦死したことになっていたが⋯⋯愛娘の迷走を心配しつつ、彼女を陰から支えようと決意していた。

 現政府の防衛部門の高官らが、彼の卓越した操縦能力を惜しみ、家族の身の安全を保障することと引き換えに、軍事技術開発の協力を持ちかけてきたのだ。ただし、死んだことにして別人となってもらうのが条件だった。

 こうして、テストパイロットとして第二の人生を密かに過ごしていた。ヒルダにはこの件は一切知らされておらず、父は死んだものと信じていた。

「調子はどうですかな?」

 そこへ眼鏡をかけた一人の若い技術者が寄って来た。

「問題はない⋯⋯それより、データの収集はきちんとできているのかね?サマン博士」

「もちろんです。解析のため一度ガ島へ戻ります」

「この同じ空の下に私の娘がいる」

「⋯⋯」

 博士はうかつな言葉を口にしてしまったことに気づく⋯⋯

 ガ島に戻れば、自分にも娘がいる。オレンジ色の髪をした愛娘だ。そのことをハワードも知っていた。

「操縦桿を握る者がいない世界は本当にやって来るのかね?」

 博士はその問いかけにも言葉を詰まらせてしまう。悲しい目でハワードの横顔を見つめ続けている以外術が見つからなかった。

 父として、パイロットとして⋯⋯ハワードからこれらすべてを奪うに等しい研究をしていたからだ。

「すまない、老人の戯言だ。気にしないくれ」

 ハワードはそう言い残すと格納庫へ向かった。