タルパ戦争 File08 狐娘

投稿日 2024.04.11 更新日 2024.04.11

 直後、心肺停止を知らせる警報音が廊下まで鳴り響く⋯⋯

 浮島の顔から徐々に血の気が引いていく。遠方から駆けつけて来た親族も到着していたらしく、周囲がざわめき出し始めた。

「頼む⋯⋯戻って来てくれ」

 浮島は両手を力強く握りしめ願った。

 しかし、懸命の処置の甲斐なく、そのまま帰らぬ人となってしまった。

 浮島はその場でただ呆然とし続けた⋯⋯

 朝になると木口や他のメンバーもやって来た。亡くなった仲間の親族と挨拶を交わすと、浮島を立ち上がらせ、そのまま病院を後にしようとした。

「浮島さん⋯⋯あんたが悪い訳じゃない」

 オカルト研究会の誰かが、浮島に対して小声でそう諭して来た。

    :

 除菌室の中で、木口の突然の感情的な豹変に驚く浮島⋯⋯とりあえず、もう一度、屋上へ戻ることにした。

 木口の取り乱した姿を他のメンバーに見せる訳にもいかない。

 二人は再び屋上へ上がる。

 浮島は晴天の青空を仰ぐように言った⋯⋯

「なぁ、木口君。誰か好きな人とか、付き合っている人はいないのかい?」

「なんだよ⋯⋯突然、そんなこと」

「いや、京都の実家の方にね。実は僕の許嫁がいるんだ。親父が勝手に決めた人でね。やっぱり、強い霊能力がある」

「あれ、浮島さん⋯⋯狐娘のタルパと契りを交わしていましたよね?」

「ごめん、僕のタルパの正体は⋯⋯実は許嫁の生霊なんだ。最初は僕が東京で女を作らないように監視するため、飛ばされて来たものだったんだけど」

「えっ?でも、じゃ⋯⋯」

「でも、彼女の生霊との間でできた誕生型は本当にタルパさ」

「生霊との間でって⋯⋯これまたすごい成功事例になりますね!」

「霊能者同士の遠距離恋愛はこうしたことも起きるらしい。もちろん、帰省した時は時も⋯⋯だけどね。真っ先に彼女のところへ向かわないと祟られる」

 浮島は欄干にもたれながら、そう苦笑した⋯⋯

「木口君は普通の恋愛をしろよ」

「うーん、でも、なかなか相手が見つからないな⋯⋯」

「あれ?僕の霊感で木口君から女性の念をかすかに感じていたけど。野暮だと思って黙っていたけど」

「えっ?今付き合っている人いないけど」

 不可思議な表情になる木口。