第90話 チベットからの思念伝達
父の話によると⋯⋯
数年前、ある政治懇談パーティーに出席した際、懇意にしていた議員にお供をしていた世話係の女性と知り合いになり、交際が始まったそうだ。
そして、来月にも結婚する予定との事だった。
「私、ぜんぜん気づかなかった」
穂都は助手席の窓を見つめながら、まだ不機嫌そうにそう呟いた。
これに対して、父は申し訳ないの一点張りで、機嫌を直すようお願いし続けた。そして、この後、赤坂にあるレストランで、穂都と穂都の新しい母親となるべき女性との初顔合わせになることを告げた。
緊張する穂都⋯⋯
ただ、家を出る間際、エシャロットから言われたことを思い出す。
ダメだ。素直になれ⋯⋯
「エシャロット⋯⋯」
「え?エシャロット?ああ、フランス料理の定番だよ。これから行く店はそいつが美味いぞ!」
直後、赤面する穂都⋯⋯
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エシャロットは夜になっても、屋根の上で考え続けた。
「さて、どうやって⋯⋯別れを告げようかね」
思い悩むエシャロット⋯⋯
「随分と悩んでいるようじゃな」
すると、背後からまた男性の声がして来た。
「約束の時間まではまだだよ!」
エシャロットは先ほどの死神かと思いき、後ろを振り向くと⋯⋯
一人の僧侶が立っていた。どうやら、どこか遠いところから⋯⋯遠隔的に出現させた生霊の様子だった。
チリ~ン♪
「あんた⋯⋯生霊だね。なんだい、あたいに何か用かい?」
「単刀直入に言おう」
息を呑むエシャロット⋯⋯
「我が軍門に下れば、お主の願いを叶えてしんぜよう」
「あんた、何者だい?」
「わしの名はコラパップ⋯⋯チベット密教の僧侶じゃ。今すぐわしと共に来れば願いを叶える」
「なんでも叶えてくれるのかい?」
「ああ、何でも叶える」
「あたいは⋯⋯」
「守護霊として永遠に守りたい人がいる⋯⋯そうじゃろ?」
「!!」
「ただし、今後は人形を介する形でのみとなる」
「あたいが挿入型タルパにならなきゃいけない理由と⋯⋯あんたの思惑、交換条件は一体なんなんだい?」
屋根の上で⋯⋯
エシャロットと謎の僧侶の対話が続く。