第89話 管狐の感

投稿日 2024.03.05 更新日 2024.03.05

 全身に稲妻が走る文子⋯⋯

 プロフィールを見て、絶対にものにしなければならない男性と確信した。相手の男性は⋯⋯そう、黒川倫太郎である。

「り、倫太郎さん⋯⋯」

 文子の胸の鼓動は高鳴り、完全に一目惚れ状態に陥った。

 小説ばかりの日々を続けていたが⋯⋯

 これまでの自分の視野の狭さに反省するばかりであった。倉持文子、25歳の新たなる戦いが⋯⋯今、ここに始まった。

 本日、この後の倉持家の夕食は⋯⋯

「おい、今日の⋯⋯なんか珍しいな。牛肉の豚汁か?」

 父、文雄の⋯⋯そんな微妙な言葉から始まる。

 気まずそうな笑みを浮かべる母と文子の二人⋯⋯ただ、数年振りに会話で弾む食卓となった。

 夕食後、風呂を済ませ自室へ戻る文子⋯⋯

 倫太郎の写真を再び見つめる。

「ねぇ、ゴン。この人、どう思う?」

「う、うん⋯⋯」

 そう言えば、父が帰宅してから⋯⋯ゴンの様子が少しおかしい。

 塞ぎ込み気味になるゴン⋯⋯

「どうしたの?ゴン」

「その写真から⋯⋯強い念を感じるんだ」

「それは、悪いものなの?」

「ちがう。ただ⋯⋯」

 言葉を詰まらせるゴン。

 そんなゴンの様子を見たのは初めてだった。もしかして⋯⋯嫉妬しているのか?文子はそう思った。

「ごめん!ごめん!ゴンちゃん!構ってあげられなくて!」

 文子はゴンを抱き上げ、頬ずりをする。

 逆にそれに驚くゴン⋯⋯

「文子ちゃん⋯⋯ちょ、ちょっと待ってよ!違うよ!」

「違うって?」

「僕は別に寂しい訳でも嫉妬している訳じゃないよ!」

「何かすごい落ち込んでいたようだったけど?」

「その写真から玉ちゃんの匂い(=念)もするんだよ!」

「えっ?どういうこと?」

「もしかすると⋯昼間、あの高級車に乗っていたおじさんは⋯⋯倫太郎さんって人の父親だったかもしれないよ。カンだけど」

 手を顎にあてて考え事をする文子⋯⋯ただ、それを今考えたところで意味はない。もう、運命にこの身を委ねようと決意した。

「ゴン、もう考えるのよそう!あとは運命に任せよう!」

「そ、そうだね」

 ゴンは笑顔を取り戻し、普段通り、文子と接するよう気持ちを改めた。