第85話 突然の迎え
夕方になると、父が帰って来た⋯⋯
しかし、穂都は完全にむくれて、部屋に閉じ籠ってしまった。穂都の部屋のドアの前で必死に懇願する父、穂積。
「昼間は悪かったよぉ~。だから、機嫌を直してくれよぉ~」
レストランの予約時間も迫っている。
「私は嫌よ!」
「穂都にどうしても合わせたい人いるんだよぉ」
「⋯⋯」
「お前の新しい母さんになる人だよぉ」
すると、穂都の部屋のドアが少しだけ開かれた。空いたドアの隙間から父を睨む穂都⋯⋯
「新しい⋯⋯お母さん?」
「そう言えば、お前。何か荷物届かなかった?」
「昼間、宅急便で来たけど」
「それを着て今すぐ行こうよぉ」
「わかった。ちょっと待って」
いったんドアが閉じられる。
穂都は昼間に届いた服に着替えようとするが⋯服に触れようとした瞬間、躊躇うように手を引いた。
悩む穂都にエシャロットは背中からこう言った。
「穂都!ダメだよ!ここは素直になりな!」
「う、うん、そうする」
「私は留守番をしているから、ゆっくり話をしてきな!」
穂都は頷くと、玉から贈られた服に着替え、部屋の外へ出た。父、穂積が感極まり子供のようにはしゃぐ。
穂都は父が運転する車に乗ると、予約先のレストランへ出発した。
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一人残されたエシャロットは、屋根の上に登り、夕陽の染まる池袋の街並みを見つめていた。
「あたいの役目も⋯⋯もう、すぐ終わりそうだね」
その時である⋯⋯
「お勤めご苦労様でした」
エシャロットの背後から中年男性と思しき声がして来た。
「誰だい!」
エシャロットが後ろを振り向くと、死神の頭領、ジェーン・パックマンが立っていた。
「あんたは⋯⋯」
「お迎えに上がりました。さぁ、約束通り、天国へ案内しますよ」
「⋯⋯」
「どうしました?」
「まだ、別れの挨拶が済んでいない⋯⋯」
「わかりました。なら、今晩の午前零時にまた迎えにきます。それまでに別れの挨拶を済ませておいてください」
パックマンはそう言うと一瞬で姿を消した。
「おいおい、いきなりかよ⋯⋯」
エシャロットは空を仰いだ。