第84話 父と娘のスキンシップ

投稿日 2024.03.03 更新日 2024.03.03

 ようやく、定時を迎えた⋯⋯

 千夏は休憩室で放心状態となっていた。

「今日一日ごくろうさん!」

 茂夫から労いの言葉をかけられるも反応がない。茂夫が千夏の顔の前で手をかざすように振ると、はじめて反応が返って来た。

「はっ!あ、すみません!すみません!すみません!」

「⋯⋯」

「すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!」

「ちょ、千夏ちゃん!落ち着いて!今日はもう終わりだから!」

「あっ!あ、えっと⋯」

 凄まじく心配になる茂夫⋯⋯

 茂夫はこれから本社ビルへ戻るため、店舗から車で出ようとしていたところだった。あまりにも不安なので、ついでに自宅まで送ることにした。

 いちおう、親友の大切な娘である⋯⋯

 が、これが千夏にとって仇となることは⋯⋯この時点で、岩鉄と長年の付き合いのあった茂夫ですら、予測できなかったのであった。

      :

 20分後、千夏を乗せた茂夫の車が豈井家前に到着。

「じゃ~今日はお疲れ!」

「送ってくださってありがとうございます!」

「明日⋯⋯大丈夫?無理なら週2~3日でもいいよ」

 その時である⋯⋯

 千夏の背中に父、岩鉄の鋭い視線が刺さっていることに気づいた。

「いえ!週5日がんばります!明日もよろしくお願いします!」

「じゃ、今日はもうゆっくり休んでね」

 バタン☆ブブーン

 茂夫の車が去る。

 千夏が恐る恐る、後ろを振り向くと⋯⋯

 玄関のドアが徐々に開かれて行き、目を血走らせ仁王立ちした岩鉄が現れた。

「た、た、ただいま」

 キョどる千夏⋯⋯

「車で送ってもらったのか?いい身分だなぁ」

「社長のご厚意を無下にする訳にいかなくて⋯⋯そのぉ」

 次の瞬間⋯⋯

 千夏は岩鉄から強烈な卍固めを喰らう。

 自宅前の路上で父と娘のスキンシップが始まる。近所の住人たちも見慣れており、誰一人気に留める者はいなかった。

「丁重に断れよ!茂夫も忙しいんじゃ!ボケが!」

「ずびぱしぇんですだ(すみませんでした)」

 顔を歪ませながら、悶絶する千夏⋯⋯

 千夏は夕食前にも、岩鉄から空手の稽古を付けられたのであった。