第78話 人身御供
文子は思案に暮れていた⋯⋯
自宅近くを流れる川の橋の上で、欄干にもたれかかり、流れ行く水面を⋯⋯寂しい目で見つめ続けていた。
「結局、私には⋯⋯文学の才能がなかったのかな」
「文子ちゃん⋯⋯」
ゴンも今の文子にかける言葉が見つからない。
とりあえず、本日の文子は大勝利だった⋯⋯パチンコやパチスロに関して負け知らずだった。
ただ、どれだけパチンコやパチスロに買っても、文子の心に⋯⋯ぽっかり空いた大きな穴を埋めることはできなかった。
「ゴン、私⋯⋯今日からパチンコ、パチスロもやめるわ」
「⋯⋯」
「結婚を真剣に考えるわ」
「そ⋯⋯そうだね!良い相手を見つけて幸せになろうね」
「私が結婚しても死ぬまで一緒だよ!ゴン!」
「う、うん」
その時である⋯⋯
背後で車の停車する音がした。文子は何気に振り向くと、そこには黒塗りのセンチュリーが止まっていた。
「なんだろう、すごい高級車だ⋯⋯」
すると⋯⋯
後方座席の窓が静かに下がり、車内から⋯⋯まるで、一部上場企業の役員か国会議員でも思わせるような、貫禄ある中高年の紳士が顔を覗かせて来た。
「お嬢さん!すまない、道を尋ねたいのだが⋯⋯〇〇駅へ向かうにはどっちの道へ行けば良いだろうか?」
「右側の道へ行けばすぐに〇〇駅ですよ」
紳士の隣、奥の座席には⋯⋯秘書ともまた違う感じのする中年女性が座っており、笑顔で文子に軽く会釈し手を振っていた。
「そうか、すまない。ありがとう!」
「あ、いえ。どうぞ、お気をつけて」
そして、車がゆっくり動き出すと、文子が伝えた通り、右の角を曲がって静かに去って行った。
「すごい高級車だったね!ゴン!」
文子は少し興奮していた。
しかし⋯⋯
ゴンの様子がおかしい。目を大きく見開き、瞳が小刻みに震えていた。
「ゴン?どうしたの?」
「玉ちゃんだ⋯⋯」
「え?」
ゴン曰く⋯⋯
あの紳士の隣に座っていた中年女性は⋯⋯
どうやら、文子に召喚される前、ゴンと一緒に過ごしていた人らしいのだ。ゴンは江戸時代、うら若き一人の乙女と共に、人身御供として一緒に井戸へ埋められた過去があった⋯⋯