第57話 父の再婚
穂都は胸糞の悪い朝を迎えていた⋯⋯
大切な親友を毒する存在が許せなかった。以前、現実逃避と小バカにされた件も含め、怒りが煮え滾っていた。
「絶対に許せない!」
穂都は自身のブログを更新するため、ワタシノフスキーのダイブ論に対する批判記事を書き始めた。
その時、ドアノックの音がする。
「穂都!ちょっといいか?入るぞ」
「何?」
穂都の父、穂積が静かにドアを開ける。
「会社、どうしたの?」
「おいおい、なんだよ。相変わらず冷たいな。今日は半休にしてあるよ」
穂都は父との仲があまり良くなかった。父が改まって娘の部屋にやって来る事は滅多になかった。このため、穂都は何か嫌な予感を覚えた。
「何の用?」
「いや、何な⋯⋯座っていいか?」
「別にいいけど」
穂積は穂都のベットの上に座った。
そして、しばしの沈黙が続いた後、話を切り出してきた。
「なぁ、穂都⋯⋯オレもまだ若い。父さん、今度⋯⋯再婚しようと思うんだ」
「⋯⋯」
「相手はなぁ、すごい良い人なんだ!」
突然の父の再婚話に頭が真っ白な状態となる穂都⋯⋯
その時、父のスマホから着信音が鳴り始める。
「おっと、会社からだ。すまない、詳しい話は今晩ゆっくりしよう。フランス料理のレストラン、予約を取ってあるから」
「ちょっと!待って!お父さん!」
「悪い!この話の続きは今晩だ!」
穂積はそう言うと、穂都の部屋から出て行った。
「お金、お金、お金⋯⋯だから、お母さんは出て行ったのよ⋯⋯」
しばらくすると、廊下から父のがなり声が鳴り響き始める⋯⋯例の如く、部下に対するパワハラの始まりである。
「回収、いくらだ?」
「まったくダメじゃん⋯⋯まったく、なー?なー?」
「ぜんぜん足りねぇーじゃん!」
「ぜんぜん足りねぇーじゃん!」
「ぜんぜん足りねぇーじゃん!」
「ぜんぜん足りねぇーじゃん!」
穂都は両耳を両手で抑え堪える⋯⋯
「私、もう、こんなの嫌!エシャロット!私、どうしたらいい?」
「穂都!大丈夫だよ!あたいが付いているよ!」
穂都のタルパ⋯⋯スケバンのエシャロットがそう勇気付ける。