第55話 幽霊列車
もうすぐ、下車予定の駅に到着する⋯⋯
千夏はドアポールを掴み、窓の外を見つめる。
先ほどの中年男性が気になるが⋯⋯
「あれ?ここ⋯⋯どこ?」
車窓の光景が、横浜のものでないことに気づいた。千夏が乗っているのは一路線の電車のはずだ。間違えて違う路線の電車に乗るはずもない。
千夏は驚き、車内を見渡すと、自分と先ほどの中年男性以外、誰も乗っていないことにも気づいた。いや、閑散とはしていたが、同じ車両に20~30人はいたはずだ。前後の車両にも誰も乗っていない⋯⋯
次の瞬間、謎の中年男性が千夏の方に向かって話しかけてきた。
「お気づきになりましたか?」
「⋯⋯」
その言葉に、どう反応して良いのかわからず押し黙る千夏⋯⋯そして、車窓から見える世界は⋯⋯まるで、地獄のような場所だった。
千夏は恐怖のあまり、車掌室へ向かって走り出した。
車掌室へ行けば何かわかるはずだ⋯⋯
しかし、最後尾の車両に辿り着くも、車掌室には誰もいなかった。今度は運転席に向かって走り出す⋯⋯
途中、例の中年男性が不敵な笑みを浮かべながら、千夏が前を通り過ぎて行くのを見つめていた。
「運転手さーん!!」
先頭車両に辿り着くと、運転席のドアを力強く叩いた。
運転手は確かにいたのだが⋯⋯よく見ると、制服に身を固めた人物はガイコツだった。
顔から血の気が引く千夏⋯⋯
足腰から力が抜け、その場に座り込んでしまった。
「何なのこれ?誰から助けてよぉ!」
しばらくすると、後ろから足音がしてきた。振り向くと、やはり、先ほどの中年男性が立っていた。
「地獄を少しだけ見てもらいます。しばらくの間だけ、付き合ってもらいますよ。なぁに、最後は必ず現世へお返ししますよ」
「なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないんですか!?」
「さぁ、どうでしょうね。それをこれからあなた自身の目で確かめてください」
「あなた⋯⋯誰?」
「あ、そうそう、申し遅れました。私の名はジェーン・パックマンと申します」
「今すぐ戻して⋯⋯会社、遅刻しちゃうよ」
「大丈夫、出社時間にちゃんと間に合いますよ」
電車は停車して、廃墟のような寂れた駅に到着した。