第37話 初めての白昼明晰夢
突然、自分の名前を呼ばれ驚く夕菜⋯⋯
辺りを見渡しても誰もいない。
どこかで聞き覚えのある声にも感じられた。ふと、踊り場の壁に設置されていた大きな鏡を見ると、絶海の孤島が映し出されていることに気づいた。
「えっ!?」
しかし、そう見えたのは一瞬だけで、次に瞬きをしたら、鏡の中には自分の姿が映し出されているだけだった。
「たしかに、今⋯⋯惚気島が見えたはず⋯⋯だけど」
直後、夕菜はポンスケの声だと悟った。
「ポ、ポンスケ!」
鏡に両手をついて、思わず歓喜の大声を上げる夕菜。
そして、そのまた次の瞬間⋯⋯
「おい、ポンスケって何だ?てか、そこで何してるんだ?」
おそらく、休憩時間を終えて、職員室に戻ろうと階段を下りて来たのか⋯⋯折原の声がして来た。
一瞬で赤面状態になる夕菜。
我を失い、気づくと⋯⋯踊り場に設置されていたゴミ箱の中に向かって、必死にポンスケと大声で叫んでいた。
「このゴミ箱の中にこうやって叫ぶと願いが叶うって先輩から聞いたんです!」
「ほんとかそれ?初耳だな」
即興で思い付いた言い訳をする夕菜⋯⋯
しかし、折原は生徒を信じる熱血教師だった。折原もゴミ箱の中へ頭を突っ込み、ポンスケと絶叫した。
夕菜は赤面状態で逃げるように帰宅した。
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夕菜は帰宅すると、自室に閉じ籠り、部屋の片隅に置いてあった鏡をじっと見つめる。もしかすると⋯⋯
「たしかに、鏡の中に惚気島が映し出されていたわ」
夕菜は鏡の前に座り込み、ただ、じっと見つめ続ける。そうするうちに、次第に眠気のようなものに襲われ、ウトウトし始める。
最近いろいろあって、少しだけ疲れていた。
すると、突然、鏡の中から一匹の子ウサギが飛び出来た。これに驚き一瞬で目が覚める夕菜。しかし、ウサギの姿はどこにもいない⋯⋯
呆然となる夕菜⋯⋯
すぐにスマホを取り出し、ゴンやトットフォーに今の出来事を相談してみることにした。
二人とも、恐らくは⋯⋯ただの入眠時幻覚ではないかとの話であったが⋯⋯再現性を高めて行けば、白昼明晰夢によるタルパの作成も可能との見解だった。それが、いわゆる「ダイブ」と呼ばれる技だった。