第32話 死神との交渉
突然、目の前から夕菜が消えた⋯⋯
しかし、これに特段、誰も驚く様子を見せない幼女一向。
「やはりな⋯⋯あいつは、あっちの世界から一時的に来たもんや」
「艦長!あれを!」
随伴警護のため⋯⋯どうやら、潜水艦の艦長と思われる、この幼女に帯同していた水兵の一人が、断崖の真上を指差す。
その水兵が指差すところに、一人の中年男性が立って見下ろしていた。
「お前がジェーン・パックマンか?」
「あなたがC子ちゃ⋯いや、C子中佐殿でありますか?」
「そや!指定された時間に来たぞ!ところで、なんであっちの世界のもんもいた?お前一人だと思っていたぞ!」
「先ほどの子は⋯⋯ちょっとした余興です」
「余興?まぁ、ええ。本題に入ろう。降りて来い!」
すると、ジェーン・パックマンなる中年男性が、直立不動の姿勢のまま、宙に浮かび上がり、静かにC子たちのところへ舞い降りて来た。
「随分と仰々しい登場ですね」
C子は再び全員に銃を下ろすよう指示を出す。
その後、その場でC子とジェーン・パックマンによる対談が行われた。
「つまり、あっちの世界のゴミどもをうちらが駆除しろと?」
「もちろん、ただでとは言いません。この島の領有権をそちらに譲ります」
「お前、ちゃんと閻魔大王から承諾取り付けておるんやろな?」
「この通り、閻魔大王様からの全権委任状を持っております」
「なるほど⋯⋯お前が死神の頭領とは聞いていたが⋯⋯わかった!」
「よろしく頼みましたよ」
そして、ジェーン・パックマンは一瞬で姿を消した。C子もその場にいた部下全員に一時撤収命令を出す。
「全員、艦へ戻るぞ」
その様子を⋯⋯
遠くの岩場の影から一匹のウサギが見ていた。
「ゆ、ゆ、ゆうな⋯ちゃん」
C子がゴムボートに乗りこもうとした際、何か妙な視線のようなものに気づき、後ろを振りかえる。
「艦長、どうかされましたか?」
「こちらを誰かに見ているような気がするんや」
同行していた先任伍長がC子と同じ方向を見る。
「あとでドローンを飛ばして確認しましょう」
「せなや、今は撤収や」
C子一向は、沖合に停泊中の潜水艦へ戻って行った。