第28話 乙女の恥
巨大掲示板「たらばがに」のオカルト板には⋯⋯
タルパ界隈ヲチスレなる悪趣味なスレがあり、日夜、誹謗中傷と罵詈雑言、あからさまな自作自演が行われ続けていた。
しかし、どういう訳か⋯⋯
普段以上に沈静化していた。
これから夏休みである。もっと、荒れてもおかしくない。
それもそのはずである。原因となる人物が、現実生活で大きな事件を引き起こし、それどころでない状況となっていたからだ。
「リンダのせいだ!全部、リンダが悪い!」
顔にモザイクがかけられていたとは言え⋯⋯わかる人には、千夏とわかる映像だった。あの後、電車が緊急停止する形ともなり、警察にも身柄を取り押さえられ、自宅はもとより学校にまで連絡が行ってしまったのだ。
とりあえず、警察から厳重注意を受けるに留まり、鉄道会社もよくある出来事と、この件でこれ以上、咎められることはなくなった。
千夏は、自室のベットの上で、丸くなるように布団を被っていた。
その時、ドアのノックが鳴る。
「千夏、入るぞ」
父、岩鉄の声である。
布団に包まり続ける千夏⋯⋯
「もう!私に構わないで!」
「ええ加減んせい!」
「ぐほぉ」
岩鉄のかかと落しが千夏の横っ腹を直撃する。
岩鉄は空手の有段者で、娘を甘やかして育ててしまったことを後悔し、最近はこのようなボディランゲージで我が子とのコミュニケーションを図る方針に特化していた。
「おい、明日、俺と一緒に出かけるぞ」
「痛い!」
「痛いのは生きている証拠だ!」
「そのうち就職課に行くからほっといて!」
「どほぉ」
再び、岩鉄のかかと落しが千夏を直撃する。
「もう、就職課は行かなくていいぞ」
「???」
「リクルートスーツ、ちゃんと、用意しておけ」
岩鉄、曰く。
知人の会社に就職させるので、そこで我慢しろとの話だった。
千夏はベットから起き上がり、父を見つめる。
「なんなん商事って知ってるだろ?あそこの社長、俺の高校時代の同級生や!」
なんなん商事は、横浜市内にある食品卸の会社だった。とりあえず、明日、なんなん商事の社長と会う約束を取り付けて来たとのことだった。