第14話 臨死体験
朝食を黙々と食べる夕菜⋯⋯
昨晩の夢が妙に気になる。それはさておき、今日は雑貨屋の店主から紹介された占い館へ行く日だ。
向かいの席には新聞を広げる父が座っていた。
次の瞬間⋯⋯
「おい、今日は三人で駅前の百貨店に行かないか?」
「あら、いいわね」
夕菜の母も賛同した。
夕菜は一瞬、顔を引きつらせたが⋯⋯嫌と言える雰囲気ではなくなった。
父曰く。久々に週末で三人揃っていることだし、家族水入らずの時間を楽しもうと提案して来たのだ。夕菜の父親は救急指定病院の勤務医だった。土日勤務や深夜当直も多く、日頃から妻や娘と話す時間が少なかったのだ。
夕菜は自室へ戻ると、しぶしぶ⋯余所行きの服装に着替え、出かける準備を始めた。鏡の前で髪を整える⋯⋯
「占い館は明日にするか⋯⋯」
とりあえず、いつまでも悶々としている訳にはいかない。父に新しい服をおねだりして買ってもらおう⋯⋯そう、気持ちを切り替え始めていた。まぁ、なんやかんや。夕菜の場合、親子の仲は良かった。
その日の昼食は、個室形式の老舗料理店となった。
そして、食事の席で⋯⋯父から将来の進路のことで、いろいろ言われるのではないかと身構えていたが、特にそのような話をすることはなかった。
珍しく自分の仕事について語り始めたのだ。
逆に、滅多に見せることのない父の一面に興味を覚え始める夕菜⋯⋯話の流れから、夕菜が日頃からオカルトに関心を持っている点に及び、自身の仕事で実際に起きた体験が語られ始めた。
病院内にまつわる怪談話や業界都市伝説などである。
その中で一番関心を寄せたものが⋯⋯
臨死体験だった。
夕菜の父が、以前、担当した患者の中に、そのような不可思議な体験をした人が何人かいたとの話だった。
しかし、夕菜の父は、最後は笑い飛ばすようにこう言った⋯⋯
「臨死体験は死の淵で凝集された記憶だと思うけどね」
走馬灯の一種だろうと持論を述べた。
何でも人間は死ぬ直前になると、脳に特異な作用が働いて、時間の進みが極端に遅く感じられるようになる現象が起きるらしいのだ。
その際に見る、長い夢のようなものが⋯⋯走馬灯だ。
夕菜は父の話に目を輝かせた。