タルパ戦争 File36 揺れ動く界隈
木口の投稿に敏感に反応するタルパ界隈。
どうやら、木口さんのタルパが暴走したらしい⋯⋯
木口さんのタルパが暴走して、木口さんの意識がダイブ界に閉じ込められているらしい⋯⋯そんな情報が飛び交った。
中には、木口死亡説まで唱える者まで現れた始末である。
タルパ界隈と言うところは、本質的にはいい加減な場所なのだ。
この状況を見過ごす事のできない男がいた⋯⋯
更梨である。
「木口のタルパが暴走?」
巨大掲示板たらばがにオカルト板を食い入るように見つめ、パソコンの前で考え事をする。前日、自室に出現したUFOらしき球体に対して、正拳突きをしたのは左手であったため、マウスの操作に支障はなかった。
左腕は三角巾の腕吊状態となっていたが、霊視は右手だけでも行える。
「今度こそ、看破してやる!」
で、あの後だが⋯⋯
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謎の金属製の球体から幼女の音声が聞こえて来た。
《マイク入ってます!B子中佐!そこの赤いボタン押してください!》
《博士、これって⋯⋯スピーカーにもなるか?》
《赤いボタンを押すとマイクOFFになります!早く!》
《じゃ、このツマミは音量調整か?》
《ああ!!ダメ!!回しちゃダメぇええええ!!》
うらぁあああああ!!
ガトー公国国歌!!もみの木!!
歌うで!!
直後、大音量の幼女の歌声が鳴り響く⋯⋯
警察に通報され、パトカーがやって来るわ⋯⋯
上下左右の部屋の住人や大家が怒りまくり、更梨の部屋にやって来て、怒鳴り蹴散らされるわ⋯⋯
散々な目に遭わされた。
クソガキのビックボイスと季節外れの大音量クリスマスソングが⋯⋯夏の暑さのうざさに拍車をかけ、誰もが神経を逆撫でさせられた。
更梨は駆けつけて来た警察官に、UFOを見せようと室内に入れたが⋯⋯
すでにその場から消えていた。
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更梨は下唇を嚙みしめる⋯⋯席から立ち上がると、ベランダに出てタバコに火をつける。
「どうやら、この俺は⋯⋯外宇宙思念体との戦いも余儀なくされそうだ。これは運命なのか?だとしたら⋯⋯」
そこは⋯⋯
いつもと変わらぬ東京湾の光景が広がっているだけだった。