タルパ戦争 File35 狂言
木口のタルパ、零が垣間見たものとは⋯⋯
赤い着物を着た女の子の霊体は、幽界(アストラル界)では壮絶なバトルを繰り広げていたのだ。
普段は木口の妹、明美の部屋の中で過ごしていることが多いのだが⋯⋯夜になると自宅内を徘徊したり、木口の部屋へ入り、木口の寝顔をじっと見つめていたりする。そして、たまにリビングで零と会話もしていた。
しかし、ある日⋯⋯
この世とあの世の中間世界、デスタウンへ繋がる入口へ、この赤い着物を着た女の子が入って行く様子を目撃したのだ。
零は、初めて見たその光景に驚き、後を追おうとした⋯⋯
デスタウンへ繋がる入口と言っても、玄関ホールの壁に設置されていた大きな鏡である。零も鏡の中へ入ろうとした⋯⋯だが、結界に阻まれた時のような感触に包まれ、鏡の中へ入ることができず、現実世界へ押し返された。
ただ、鏡を凝視すると⋯⋯
かすかにではあるが、鏡の中へ入っていた女の子の様子を見て捉えることができた。その中はおどろおどろしい光景が広がっていた。
息を呑む零⋯⋯
すると、女の子がこちらの方に向かって来て、鏡の中から出て来た。
「零、見たわね」
「え、あ、その⋯⋯ちょっと、興味本位で⋯⋯」
恐怖で体が震える零⋯⋯
「いいわ。許してあげる。でも、次、覗いたら⋯⋯あなたを浄化するわ」
「わ、わかった。ごめん」
浄化とは⋯⋯
霊体を消滅させて、魂すら無に帰してしまう行為を指す。
当然、来世はない。
:
「零、零?どうした?」
「はっ、あ、ごめん。浩一⋯⋯ちょっと、考え事してた」
「いよいよだ。作戦を開始する」
木口はパソコンの前に座ると、SNSアカウントを通じて、タルパ界隈に向け、自身のタルパが暴走し始めた旨を伝え始めた。
そして、木口のその投稿が次々とリツートされ始めた。
タルパ界隈が騒然とし始める。
:
東北へ向かう車中、浮島はその様子をスマホで確認していた。
「いよいよだな。木口君⋯⋯」
自分が東京へ戻る頃までには⋯⋯タルパ界隈は相当盛り上がっていることだろうと睨んだ。そして、金曜日の夜に決行だ。
タルパ戦争の始まりである。