タルパ戦争 File34 恐妻家の魂
さらに翌日の火曜日⋯⋯
早朝、浮島は上野駅へ向かう。昼までに恐山に到着するだろう。
一方、木口は週末の決行に備え、諸々の準備を推し進めていた。目下の懸案は妹、明美である。
木口は明美へ国際電話をかける⋯⋯
プルルル♪プルルル♪カチャ☆
《もしもし、お兄ちゃん!私の命令に従う気になった?》
「なぁ、明美⋯⋯頼むから、俺の話を真剣に聞いてくれ。今度やろうとする事は男と男の友情によるものだ。大切な仲間が自殺した⋯⋯そうだな、言うなれば⋯⋯弔い合戦的なものになるんだ」
《わかった⋯⋯でも、お兄ちゃんの身にもしもの事態が発生したら⋯⋯私、躊躇ずに力を発揮するからね》
「なぁ、明美⋯⋯俺にタルパが憑いているのは見えているよな?そいつにだけは手は出さないで黙って見ていてくれ。作戦の一環でタルパにガチで俺に攻撃してもらう。本物の霊能者に狂言だって見破られないようにするため⋯⋯」
《わかった⋯⋯零君って言ったよね。私の心霊ロボットとたまに会話していたわ。》
「心霊ロボット?もしかして、赤い着物を着た座敷わらしは⋯⋯お前のタルパなのか?」
《正確には変遷型タルパに近い感じのものになるかな⋯⋯でも、独立した意思は持ってない。私が遠隔念力で動かしている感じかな》
「なら、浮島さんの姿は見えていたよな?なんで自宅に女性がやって来たことを疑った?」
《視覚的には見えないわ。ぜんぶ、脳裏のイメージで捉えている。遠視って言うほどかんたんじゃない。難しいわ。あと、浮島って人⋯⋯彼の霊体は女性っぽいわね。その影響もあったかもしれない》
「それってどういうこと???」
《うーん、よくわかんないけど⋯⋯男性であることを後悔しているよな⋯⋯恐妻家の人によく見られる現象ね》
「なるほど⋯⋯わかった」
《あ、そうそう。お兄ちゃん⋯⋯気をつけて!誰かがお兄ちゃんを狙っている》
「俺が狙われている?」
《霊能者っぽい男から霊視されそうになったところ、私が撃退してやったわ!心当たりある?》
「まさか⋯⋯更梨さんだろうか」
《おっけ~♪敵は更梨って男ね。次は⋯⋯》
「わぁあああ!ちょっと待った!攻撃しちゃダメ!」
木口は妹、明美に指示がない限り動かないよう懇願した。