Episode 14 内通者
ヤマダハル歓楽街の裏路地にあるとある喫茶店⋯⋯
組織の資金稼ぎを目的に開かれた店だ。キンカと同郷であった幼馴染のブリュンカが表向き経営、切り盛りする店だった。
ブリュンカはキンカと同じ120歳であったが、美しいダークエルフの少女である。二人はトットフォーと出会い、ヲティスレ軍に入るまでの間、ヤマダハルで盗賊をしていた仲でもあった。
この喫茶店は⋯⋯
トットフォーが弱みを握った政府役人と落ち合うための場所としても利用していた。もちろん、この喫茶店がヲティスレ軍により運営されていることまでは知られていないし、気づかれていない模様だった。
今日もこの店の隅で⋯⋯
表向き、一般客を装った怪しげな密会が行われていた。トットフォーと役人風の中年男性の二人が同じテーブルの席に付いていた。
「ねぇ、官邸の間取り図⋯⋯入手できるからしら?」
「いや⋯⋯流石にそれは⋯⋯ちょっと、渡せないよ。すまない」
泣きそうな表情で困惑する中年男性に対して、トットフォーは静かに顔を近づけ、吐息を吹きかける⋯⋯そして、札束の入った封筒を、男性の内ポケットへ無理矢理に押し込んだ。
「今さらそれはなしでしょ」
次の瞬間、トットフォーは鋭い目つきに代わり男性を脅す。
男性は首相官邸に勤めていた事務官だった。
「ねぇ、あと、最近の彼女の様子はどうかしら?」
「彼女⋯⋯ヒルダ姫のことですか?」
「あらあら、姫呼ばわりしちゃって⋯⋯この国はいつから王政復古したのかしら?この国は民主共和制の国へ変わったはずよね?」
「姫の悪口だけは⋯⋯言わないで欲しい」
「あっ?」
眉間にしわを寄せ、男性を睨むトットフォー⋯⋯
男性は慌てて頭を下げまくる。
この国の事情は本当に複雑だった。現政府内でもハワード王を信奉して、王政復古を支持している者は多かった。そして、まことしやかに⋯⋯
こんな噂も官僚や政治家たちの間で流れていた。
ハワード王はまだ生きている⋯⋯
しかし、トットフォーは憎悪の対象でしかなった。
融和政策と称してエルフから国を奪った男であったからだ。ハワードの善意によるものであったが、トットフォーの理解が及ぶところのものでもなかった。