タルパ戦争 File17 顔のない男

投稿日 2024.05.09 更新日 2024.05.09

 浮島は帰りの電車の中で思案に暮れていた。

 作戦を綿密に練り上げる必要がある⋯とりあえず、今週末にそれをよく考えて、週明けの月曜日にも、木口に詳細を提案するつもりだ。

 しかし⋯⋯

 木口の一件と言い⋯⋯

 法政大の更梨の不可解な行動と言い⋯⋯

 思わぬ形で表面化した問題⋯⋯いや、浮島の霊能力をもってすれば、いずれも些細なものに過ぎないのだが⋯⋯

 そんなちょっとした不確定要素が気になり始めた。

「木口君の件は保留にするとして⋯⋯更梨と言う男は本当に謎だ」

 学生の身でありながら、著名なオカルト研究家として広く活動していた。彼の業績はオカルト雑誌モーにも紹介されていたほどである。

 しかし、ネット上では顔写真は一枚も見かけない。出身地や出身高などの情報も不明である。男性で法学部の学生である以外、何も分からなかった。

 気になる彼のオカルト研究であるが⋯⋯

「彼は霊視が得意らしいな」

 浮島はスマホを食い入るように見つめる。オカルト雑誌モーの公式サイトに掲載していった、更梨のオカルト研究に関するページを閲覧していた。

「彼の霊能力がどれほどのものか⋯⋯」

 タルパ界隈は玉石混淆の世界である。

 本当にどうしようもない者たちが多くを占める世界であるが⋯⋯中には本物もいる。幸い、浮島のものと比べ遠く及ばないレベルのものばかりであったが、更梨は例外と見えるべきだろう。

「何としても事前に彼と接触して確認しておかねば⋯⋯」

 電車の座席の上で一人悩む浮島⋯⋯

 その一方で、浮島はこうも考え始めていた。更梨との接触が叶わなかった場合を想定したシナリオである。

「やはり、木口君に取り憑いている座敷わらしを利用するか⋯⋯」

 しかし、浮島と木口⋯⋯この二人の認識の違いはここから生まれることとなる。親友同士であるが故のものだ。

     :

「零、彼女の本心⋯⋯浮島さんは見抜いていた?」

「今日はそこまでは見れなかったと思う⋯⋯実験で誰かのところへ押し付けたら⋯⋯そいつは地獄を見ることになる」

「⋯⋯」

「浮島さんに話しておく?それとも⋯⋯」

「いや、この事は浮島さんに内緒にしておこう。すべて僕たちでやろう」