第77話 満身創痍
茂夫は唖然とした⋯⋯
「千夏ちゃん⋯⋯一体、どうしたの!?」
本日、初出勤となる千夏を見て、彼女の身に一体何が起きたのかと⋯⋯非常に訝しがった。髪の毛はボサボサで、顔には今しがたできたであろう傷があり、両手は明らかに何かを殴打したような感じのあざもできていた。
「あーこれにはいろいろ訳がありまして⋯⋯」
「訳?てか、仕事⋯⋯その体でできそう?大丈夫なの?」
「実は、今朝から⋯⋯かくかく、しかじかで」
直後、茂夫は大声で笑い出した。
「な、なるほど」
腹を抱え、笑いの止まらない茂夫⋯⋯
南難茂夫曰く、千夏の父、岩鉄は⋯⋯凸都館高校の寮でも、同じようなことをしていたとのことだった。早朝、寝ている下級生らを次々と足で蹴り飛ばしてたたき起こし、空手の稽古をつけていたとの話だった。
「千夏ちゃん、今日から岩鉄のしごきが始まるけど、し⋯⋯いや、頑張ってね」
茂夫の言いかけた「し」が「死」に思えてならず、千夏はその場で凍てついた。とりあえず、新しい職場に無事到着することができた。
気になる仕事内容であるが⋯⋯
ホールでの接客は⋯⋯その状態では、ちょっと、客も不気味がると言うか、怖がるので、キッチンなどの裏方の仕事をしてもらうことに決まった。
「女の子だからホールを考えていたけど、その体じゃ⋯⋯まぁ、キッチンも人手が足らないから、そっちに専念してもらうよ」
「す、すみません!がんばりますから宜しくお願いします!」
「あ、そうそう。時給の件だけど⋯⋯300円は流石に労働基準法違反になるから⋯そうだなぁ」
もしかすると⋯⋯
父、岩鉄に内緒で、正規の時給に戻してもらえる!?千夏の心は一瞬時めく⋯⋯が、次の瞬間、その期待は見事に裏切られる。
「残り900円は千夏ちゃんが日本赤十字に寄付したってことにするよ」
「えっ」
「あ~大丈夫!安心して!これ形だけの話じゃないよ」
「⋯」
「千夏ちゃん名義で本当に日本赤十字に寄付するから!そう経理処理するよ。じゃ~あ、今日からがんばってね!」
「わがりまじだ(涙)」
千夏は涙目になりながら、担当部署となるキッチンへ案内された。しかし、本当の地獄は⋯⋯ここから始まるのだった。