第74話 タルパ戦争

投稿日 2024.02.26 更新日 2024.02.26

 これは浮島が学生時代の話である⋯⋯

 浮島は文学部の学生であった。

 将来、実家の社を継ぐため、文学部で宗教や哲学を学んでいた。当初はそのつもりだった。

 大学ではオカルト研究会も主催し、あのタルパ戦争を引き起こした⋯⋯

 何が彼をそうさせたのか?

 まず、順を追って説明して行こう。

 これはオカルトの世界に限った話ではないが、どの分野でも発展して来るとライト層が大半を占めて来るようになるものだ。

 しかし、内容が内容だけあり⋯⋯

 安易に関心を持ち、実践して欲しくないものばかりだ。

 オカルトの各種の技は、正しい知識を持った者が行わないと危険である。興味本位で挑戦して、取り返しのつかない事態を招く者が少なくない。

 浮島はそんな状況を憂い始めていた。

 実は⋯⋯

 浮島の主催するオカルト研究会のメンバーの一人が、タルパを作ったことが原因で、精神を患い〇殺を図った事件にあったのだ。

 知らせを受け、救急搬送先の病院へ駆けつける浮島⋯⋯

「違う!僕はこんなことのためにタルパの教えを広めた訳じゃない!」

 浮島は病院の廊下の長椅子の上で涙を堪え、一晩中、メンバーの快方を祈り続けた。しかし、自ら命を絶つことを決めたメンバーは、回復に向かわず、そのまま帰らぬ人となってしまった。

 この出来事がきっかけとなり、浮島はすべてを無に帰そうと考え始める。

「もう、こんな悲劇は二度と起こさせない⋯⋯」

 そして、浮島は木口と相談して、タルパ界隈である実験を仕組むことを考え始める。その実験こそが⋯⋯後に、オカルト都市伝説として長く語り続けられることになるタルパ戦争である。

 ライト層が激増したタルパ界隈に一泡吹かせる⋯⋯

 壮大な企み、実験である。

 それは大学のサークル部屋で二人きりになった時の話である。

「浮島さん、本当にいいんですか?怨まれますよ⋯⋯」

「これは誰かがやらなくちゃいけないんだ!それは自分一人だけでいいだろう」

「そんなの⋯⋯ずるいよ!浮島さん一人だけにすべてを背負わせないよ!」

 木口は号泣しながら、浮島の胸倉に掴みかかった⋯⋯浮島は木口の熱意に押し負かされて、木口も首謀者の一人となることを承諾した。