第68話 縄張り
互いに睨み合う、浮島とエシャロット⋯⋯
それを電柱の陰から固唾を飲んで見守る更梨。
「ここはあたいの縄張りだよ!」
「すまない、できれば君と戦いたくない」
「なら⋯⋯」
「なら?どうする?君の力では俺は倒せないよ」
歯を食いしばるエシャロット⋯⋯
回していた鎖を両手で力強く引っ張り、浮島に対して威嚇する。
「やめておけ!本当に浄化するぞ!お前は不成仏霊のようだが⋯守護霊に近いものも感じる。誰を守っているのか知らないが、その人のためにもやめておけ!」
「⋯⋯」
エシャロットは持っていた鎖を緩めると、両手をそのまま下ろした。
「食えないヤツだねぇ。行きな!」
「いいか、二度目はないぞ」
浮島はエシャロットにそう忠告すると、その場を立ち去った。
そのまま道を進むと⋯⋯
「ここだな!」
夕菜の自宅前に辿り着いた。
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夕菜は幸せの絶頂にいた⋯⋯
「ポンちゃん!一緒におやつ食べよう!」
「うん!」
タルパは不可視の存在であるため、人間の食べ物を口にすることはできないように思われるが⋯⋯オカルト的には幽霊みたいなものなので、神棚や仏壇のお供え物と同じように頂くことができた。
現世における人間が、肉体と霊魂の重なりであるように⋯⋯
食べ物や衣服などの物は、物質と霊質(=魂のない霊体)の重なりである。つまり、物からその物に宿る霊質を抜き取り⋯⋯それを食べるのだ。
これをコピーと言う。
ちなみに、霊質は「気」でできている。霊質の抜かれた物は⋯⋯しばらく、時間が経てば、周囲の空気中に漂う気を吸収して再び霊質を満たす。
つまり、夕菜は物質としてクッキーを食べ、ポンスケは霊質としてクッキーを食べるのだ。霊質は元の物の性質⋯味や匂いも引き継ぐので、夕菜とポンスケの味覚は共有され、食べる喜びも一緒に体験できる。
「ゆ、夕菜ちゃん!これからよろしくね!」
「ポンスケもよろしくね!」
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浮島はスマホを取り出し、地図アプリで道を確認するふりをして、しばし、その場に留まる。
「やはり⋯⋯この家だな。ただ、残響のようだ⋯⋯もう、すでにいないな。スペツナズか⋯⋯」