第62話 死者の映画館
千夏が乗っていた列車は、廃墟のような寂れた駅に停車した⋯⋯
ドアが開くと、砂埃混じりの風が車内に舞い込んで来た。そして、湿度のある生暖かい風だった。
「ほら、あなたの到着を待っていた人がいますよ」
「⋯⋯」
千夏は恐る恐る顔を上げ、目の前の空いたドアの外を見る⋯⋯
すると⋯⋯
そこには、戦国時代の青年武士が立っていた。
背中に大きな刀を携え、右腕に鷹のような大きな猛禽類が止まっており、青年武士に懐いている様子だった。
次の瞬間、鷹が上空へ舞い上がり、どこかへ飛んで行く。
「お主が我を人形にして遊んでいる女か?」
千夏ははっと息を呑む。
「ら、蘭丸ちゃん?」
「我はお前のような軟弱な女が大嫌いだ!」
どうやら、森蘭丸本人のようだ。
そして、千夏を快く思っていない様子であることは間違いなさそうだった。
終始、背を向けたままの森蘭丸だったが⋯⋯
急に振り返ると、千夏の方へ接近してきた。森蘭丸は千夏の首根っこを掴むと、強引に引きずり出すように列車から降ろした。
「きゃ!やめて!」
「うるさい!バカ女!黙ってついて来い!」
千夏はただ⋯⋯
ずるずると地面を引きずられる。
そのまま駅舎から出ると、寂れた一軒の映画館のような建物の中へ連れ込まれた。その後を⋯⋯パックマンもついて行く。
「やれやれ、随分と手荒な真似をしますね」
「これがオレのやり方だ!」
森蘭丸はそう言うと⋯⋯
今度は千夏の胸倉を掴み、強引に立ち上がらせる。そして、座席に放り投げるように座らせた。
パックマンも少し離れた座席に座る。
「千夏さん、ここは⋯⋯死者の映画館です」
「死者の映画館?」
「本来は、死んだ者に自分の生涯を⋯⋯見せる場所になります。その後、あの扉から地獄の裁判所へ向かいます」
「私⋯⋯死んだの?」
「森殿が今日は違うものを見せたいようです」
「私⋯⋯死ぬの?」
「大丈夫、終わったら元の世界へ戻しますよ。今回は特別な措置です」
むせび泣く千夏⋯⋯
すると、館内の照明が消え、真っ暗闇となる。スクリーンに歴史記録映像のようなものが流れ始める。