第60話 陰陽師

投稿日 2024.02.17 更新日 2024.02.19

 ここは東京の市ヶ谷にある防衛省の一室⋯⋯

 何かの作戦指令室らしい。

「豊島区付近で強力な念力発生を確認!」

 オペレータの緊迫した声が響き渡る。

「これは⋯⋯通常の心霊現象を遥かに超えた力だね」

 オペレータの後ろに立ち、観測モニタを確認した一人の青年士官が、腕を組みながら、何かを考え始める。

 男の名は、浮島譲司⋯⋯

 陸上自衛隊の対超常現象特殊作戦群の作戦指揮官である。

 対超常現象特殊作戦群とは⋯⋯

 超能力や霊能力を持った自衛隊員から構成された組織である。浮島も京都の名だたる大社を出自とした陰陽師である。

 当然、その性質上、公にできない非公式の組織となるため、予算も限られていた。日当たりの悪い一室を当てがわれて、細々と活動を続けていた。

「どうやら⋯⋯対外的な⋯⋯霊的な工作活動の可能性がありそうです」

「そのまま監視を続けてくれ」

「一尉、万が一の際は⋯⋯どうしますか?」

「もちろん、やるさ!とりあえず、その近くに頼りになる協力者がいるんだ。先にそっちから当たって見ることにする」

 浮島はオペレータにそう告げると、自席へ戻り、スマホを取り出すと、電話をかけ始めた。

「もしもし、シシルかい?ちょっと、気になる⋯⋯そうか、そっちもか」

    :

 同じ頃、池袋の占い館の一室で、スマホを片手に持ちながら、水晶球を見つめる女がいた。成吉シシルだ。

「私もさっき感じたわ⋯⋯強力な念力ね。大手町の首塚を凌ぐわ」

 シシルは水晶球に映し出されるビジョンをより鮮明にするため、全身全霊となり己の念を集中させた。すると⋯⋯

「やだ!あの子のところだわ!」

    :

 浮島は電話を切ると、深いため息をついた。

「内偵の必要があるかもしれないな⋯⋯」

 しかし、常に予算と人員の限られた組織だ。今回は浮島自ら動くにことに決めた。今も全国で数少ない部隊の仲間たちが作戦行動中である。

「私がこれから現場へ直接調査に行く」

 浮島はオペレータに留守を頼むと、私服に着替えて庁舎を出た。

 対超常現象特殊作戦群のメンバーは、普通の超能力者や霊能者ではない。全員、レンジャー資格も持った選りすぐりだった。