第59話 あの世からの使者
戸惑いを隠し切れない夕菜⋯⋯
だが、タルパのことばかり考えてもいられなかった。
あれはこれまでに体験したことのない鮮明な明晰夢だった。近々、ポンスケが自分のところにやって来るかもしれない⋯⋯穂都やゴンの忠告を頭の片隅に入れつつ、今はそう信じて過ごすことに決めた。
「手続きを済ませたら、引き渡すなんて言っていたけど⋯⋯」
それがいつどのような形で行われるのか疑問だった。
キッチンでコーヒーを注ぐ夕菜⋯⋯
とりあえず、自室へ戻ると気持ちを切り替えて勉強に励む。
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Какой у тебя следующий заказ ?(次の指令は何だ?)
Это доставка Тульпы.(タルパを届ける指令です)
ロシア語で会話をする⋯⋯厳つい男たちがいた。
回収班と呼ばれた、クリスマスプレゼント没収のスペシャリスト達だった。全員、戦闘服に身を固め、さながら特殊部隊を思わせた⋯⋯
いや⋯⋯
彼らはスペツナズ超能力部隊の元隊員たちである。〇ーチン大統領に嫌気が差して、ガトー公国へ亡命して来た者達だ。超能力を得意とし、この世とあの世を行き来できる能力を保持していた。
彼らの主な任務内容は、クリスマスプレゼントを不当な手段で受け取った悪い子に対する懲罰であったが⋯⋯
夏場に差しかかる頃までには、一通り、悪い子への懲罰は済む。そして、その年の12月25日までの間は、こうした任務をこなしているのだ。
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明晰夢ばかり見ていたためか、少し寝不足気味だった。気づけば、夕菜は机の上で眠り込んでしまっていた。
「ポンスケ⋯⋯むにゃむにゃ」
次の瞬間、背中をポンポン軽く叩かれ、驚いて目が覚めた。
最初は母が部屋に入って来たのだろうと思ったが⋯⋯後ろを振り向くと、そこには、大柄の軍人が5~6人立っていた。
「〇☆▽卍◎×◆!?」
夕菜は自分でも訳のわからない言葉を発する。
すると、一人の男がウサギを抱きかかえているのに気づいた。男は夕菜に押し付けるようポンスケを引き渡した。
呆然とする夕菜⋯⋯
「God bless you !」
そう言い残すと全員目の前から消えた。