第44話 姉
突然、艦内に出現した珍客に戸惑う航海長⋯⋯
「艦長が連れ込んだのは間違いなさそうだな⋯⋯あの人には本当に困る」
航海長は致し方なく、艦長が戻って来るまでの間、ランカに世話役を命じることにした。しかし、発令所内にいたウサギ族の獣人の航海科員の一人が、ランカの抱きかかえる子ウサギを、不可思議そうにじっと見つめ続けていた。
「この子に何か気になる点でもあるんですか?」
「いや、その子⋯⋯動物じゃない。僕と同じ獣人だよ!」
「えっ!?じゃ、食べられないの!!」
次の瞬間⋯⋯
「ゆ、ゆ、ゆうなちゃん!」
小ウサギが言葉を発したのだ。
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千夏は口から泡を吹き気絶した。
岩鉄は怒りから眠気も覚め、薄暗いリビングで一人ウィスキーを煽るように飲んでいた。しばらくすると、智恵もやって来た。
「千夏がまた何か騒ぎを起こしたんですか?」
「ああ、相変わらず寝言がうるさい」
「頭だけは強く叩かないでくださいね。バカになりますから」
「わかってる!」
コン☆
岩鉄はグラスをテーブルの上に置くと、サイドボードに置かれていた写真立てに手を伸ばし見つめる。
「こんな時、世夏がおればな⋯⋯」
「あなた、それは言わない約束ですよ!」
「ああ、そうだったな」
少し涙ぐむ岩鉄。
実は、千夏には5歳年上の姉、世夏(せなつ)がいたのだ。千夏と違いしっかり者であったが、数年前に不慮の事故で他界していたのだ。
「なんで妹はあんなバカなんだ⋯⋯」
「あなた!それも言わない約束ですよ!」
「ああ、そうだったな⋯⋯母さん!オレは決めたぞ!」
岩鉄曰く、明日の朝⋯⋯いや、今日からか、千夏に空手の稽古も付けると言い始めたのだ。
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いつも通り、夕菜は自分が夢の中にいることに気づいた。
ここ最近、惚気島にいる夢の再現率が高い⋯⋯
しかし、様子がこれまでまったく違う。銃撃音や爆撃音のようなものが、島のあちこちで鳴り響いていたのだ。
「えっ、戦争でも起きたの?」
戸惑う夕菜⋯⋯
硝煙のような匂いも漂う。ちょうど、草むらの中にいたような感じだった。それをかき分けるように前へ進む。